いと恋しき教師様！[鈴木達央]

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「…な？楽しいだろ？」
やっと自分の質問に答えてくれるのか、こちらに向き直る。
「こっちもこっちも、すっげぇ親近感わかねぇ？」
黒板に書かれた2首を指差しながらどうだ？と目で聞いてくるため何度かうなづいた。
なんとなく負けた気がして悔しい。それでも、楽しい。
「最初のほうは、すっごいモテてモテてたまらない好きな人をやっとのことで捕まえた時の歌で。どれだけ相手が自分のことを愛しているのかわかっているのに不安っていう…。ね、今の歌でもありそうだよな。」
確かによくドラマの主題歌になって爆発的に売れたり、カラオケでランキングにはいったりする曲は恋愛ソングが多く。あまり聞かないためわからないが、このような曲も多いのだろう。
最近は実体験を基にして歌詞を書いている人もいるくらいなのだから。
「多分今のを聞いて、分かるなとか共感したなとか。思った人いると思うだよ。それってすっげぇおもしれぇと思わない？何百年前の人と同じ考えしてるって。こんだけ時代が変わって、片や唄を送り合い片やSNSで済ますような時代になったのにさ。」
変な気分だよなーとチョークを黒板の下に置き、またも両手を教卓にのせ人差し指だけでたたく。癖なのだろうか。
「当時の人は唄を送り合うことで、お互いの愛を表現し合ったり、自分の感情を書いてみたりしてんだよな。それを暴くのって、なんか他人のラブレター勝手に読んでるみたいで俺はすっごいワクワクした。…だから古典を始めたんだよね。」
なんて安直なことだろうか。好奇心だけで人生の職業を決めてしまうだなんて。
でもきっとこれが本当のことなのだろうとわかるのは鈴木先生の瞳の強さが嘘ではないと語るからだ。
「勿論綺麗な唄ばっかじゃねぇんだよ。あの清少納言が私は守りが堅いんですよーみたいなことを自分に冗談で好意を仄めかしてきた男に唄ったら、相手が返事したのがこれ。」
一度先ほどの2首を消してから上から新たな唄を書く。
『逢坂は 人越えやすき 関なれば 鳥鳴かぬにも 開けて待つとか』
「意味は守りが堅い？あなたは誰でも体を開くから、みんなチョロいって言ってますよ。」
その意味に、女子は最低ー！と怒りながら笑い、男子は爆笑している。すげえ強え！って誰に向かっての称賛なのやら。
「な？古典も案外おもしれぇだろ？」
たった数十分で、30人近くの生徒の心が一気にこの人につかまれた。
人心掌握にたけているのかそれとも教師が天職なのか。
変な先生がきたものだ。

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