いと恋しき教師様！[鈴木達央]

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あのとき満開から少し過ぎ散り始めていた桜も、今ではすっかり全部落ちてしまった6月上旬。
梅雨真っ盛りで連日雨続き。さすがに気分も憂鬱だ。
そんななかでも先生は相変わらず…嘘。
「あーもー雨飽きた。こんだけ続くと、確かに日本の風物詩かもしれないけど鬱になる。」
みんながプリントを解いているというのに一人教卓の内側にある椅子に座って暇そうに頬杖をついてぼんやりと窓の外を見ている。
その横顔もムカつくぐらいに様になっていて、言いたくないけど………かっこいい。
古典教師だからだろうか、日本の四季や情緒を大切にする先生にしては珍しい。
目の前のプリントにある、まるで私を嘲笑うように埋まらない空白を睨むというなんとも無意味な行動をやめて、先生に質問を投げかける。
「先生雨嫌いなの？」
他の生徒を気にして、すこし声を落としたがその遠慮はいらなかったみたいで。みんなプリントから視線をあげて先生を見つめた。
どんだけ先生のこと好きなの、って私が言えることじゃないけど。
「んー？別に嫌いってわけじゃねーけどさー…なんか、雨って悲しくならない？」
その視線は誰とも交わらずに、ただ窓の外を見ていた。
でもふと我に返った先生は、まるでシャボン玉がはじけたように前を向き、みんなのほうに笑いかけた。
「でもやっぱ梅雨は日本ならではの気候だし大切にしなきゃだよなー。」
その笑顔１つだけでクラスの空気が一気に持ち上がるのを感じる。
ほらほらプリントーと叩かれた手に慌てて視線を落とした。
といっても脳内はまったく問題を処理どころか受け入れてもくれなくて、頭を抱えて唸るしかなかった。
もうだめだぁって雨のジトジト感にもやられた脳みそが投げ出そうとした時、視界に骨ばった指が侵入した。
「ここ。この前やったろー？ほら、ルパン三世！千と千尋の神隠し！」
一見なんの脈絡もないいきなりの発言のように思えるが、私は違う。
その言葉たちでピンときた用語を空欄に埋める。―『枕詞』っと。
書き終わった瞬間、頭に感じたいつもどおりの感触。
「よくできました。」
ぐしゃぐしゃと撫でられて、先生が胸元にさしていた赤ペンで小さく花丸を書いてくれる。
それがどうしようもなく嬉しかった。
もちろん、一部始終を見ていた女子たちが一斉に騒ぎ出したのだが、問題ない。
だって1番は私だもん。
心にじわりと広がる優越感がくすぐったい。
「…しまのん…なんかあった？」
紘の不審そうな眼もこの際無視だ無視。

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