いと恋しき教師様！[鈴木達央]

１１＊ ページ11

「意味は、夜が明ければ、やがて日が暮れてあなたに会うことが出来ると分かっているけど、あなたと別れなければならない明け方がくるのがやはり恨めしく思えます。」
相変わらずすごいと思うのは、教科書も何も見ずに百人一首を書き意味を説明するところ。
この前それを褒めれば古典専任なんだから当たり前だろと言われてしまった。
「当時は通い婚が基本だったからな。男が来ない限り女はずっと待つ身ってわけだ。自分から行くことは許されない。だからこそ、1つ1つの逢瀬を大事にして、大切にしてるっつー歌だな。」
素敵ー、とどっかの女子から感想が呟かれ。それにのっかるように次々と女子たちがザワザワしだす。
きっと今気まずげにしてるのは最近恋人とのメールやデート等をさぼっている男子達だろうか。
これを機にぜひとも改善して頂きたいものだ。
日々休み時間に彼氏に対する愚痴をこぼす女子の口調と表情と言ったら表現しきれないほどにひどいものなのだから。あんだけのボキャブラリーを持っているというのに、なぜ形容詞となるとみんな『やばい』を使うのかが謎だ。
自分も女子なはずなのに…と思うがそれは一旦置いておこう。
このコーナーは先生が百人一首を一首紹介して説明するだけでは終わらない。
そして皆が皆、そのあとを楽しみに心を踊らされている。
今日もいつも同様、その時間は訪れた。
「まぁ俺なら、そんだけ自分と会うのを大切な時間だと思ってくれる奴んとこ、間髪入れずに通うけどな。」
無駄にいい声で言われるその感想に、今日も女子(となぜか一部の男子)が心に矢を打たれたご様子。
女子は顔を真っ赤にしながら耳を押さえ、「孕む…」と悶え。
男子は悔しそうな顔をしながらも頬を染め、「子宮ができる」と蹲り。
ヒットしていないのは自分と、相も変わらず顔が青い紘だけであった。
この光景何回見ても面白い。
このせいで授業時間が短くなってしまうのだが、他クラスの話を聞くと授業進度は決して遅くなく、むしろ早いという不思議な現象が起きていた。
どういう力を使っているんだろうか、と胡散臭いものを見る目で先生を見れば、今日やるページを見ていた目がこちらへと持ちあがり、茶目っ気たっぷりに舌を出しておどけてみせた。
小学生か。
思わず心の中でつっこんでしまったがいたしかたない。
呆れたようにため息をつけば、ふはっと向こうは噴き出すように笑い、そして2度手をたたいた。
授業開始の合図だ。

１２＊→←１０＊

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す