32 : 水菜 ページ32
『 全く理解出来ない 』
「 ほんまにバカやな 」
『 はあ？ 』
宅配ピザをローテーブルの上に置いて、
ソファを背もたれにして、
ちょこんと座る永瀬。
隣をぽんぽんと叩く。
『 永瀬？ 』
「 何や 」
『 私のあだ名あるじゃん？ 』
「 上等さんやろ 」
『 好きな野菜、レタスと？ 』
「 水菜 」
本物だ…うわ。
まさか水菜が
ここに来て役立つなんて。
『 左利きですか？ 』
「 おん。知らんかったん？ 」
『 存じ上げてます 』
ここにいる。
その実感がようやく、
ふつふつと沸いてきた。
「 てか早よこっち来いや 」
隣に座る。
肩を並べるのは、
いつぶりだろう。
息が止まりそうだ。
「 怒らん？ 」
『 え？ 』
「 言っても怒らん？ 」
どうやって、
家の鍵とったとか？
怒るに決まってるでしょ。
ちょっと、
睨むようにして永瀬を見る。
さあ。
聞こうじゃないか。
言い分を！
「 ずっと会いたかった 」
へ、と素っ頓狂な声が出てしまった。
ぐいっと腕を掴まれると、
永瀬の方へ引っ張られる。
強引に抱き寄せられて、腕の中。
どくん、と心臓の音。
どんどん力を籠められて、
抱きしめる力が強くなる腕。
痛さに身を攀じると、
永瀬が我に返ったように、
はっ、と息を飲んで力を緩める。
『 ……ピザ冷めるよ 』
「 ………そうやな 」
どことなく、気まずい空気。
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作者名：翠
| 作成日時：2016年1月22日 2時
