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「やっぱり、Aちゃんのご飯がいちばんやなぁ。おいしい」
「それはよかった」
あれからしばらくして目が覚めたらしい坂田くんはにこにこと頬を緩ませながらご飯を食べていた。作り置き温めて出しただけなんだけど、本当に美味しそうに食べるなぁ。私まで嬉しくて頬が緩んじゃう。
暫くはそんな彼を見ていたが、私がふと窓の外を見ると、外ではまだ斑に雨が降っていて弱くなったり強くなったりを繰り返していた。風が強いのか吹き付ける音や、レジ袋か何かが宙に舞って飛んでいくのが見える。なんだか台風でもきてしまったかのような天気だ。
中々雨やまないなぁ、なんて思っているといつの間にかご飯を食べ終わっていたらしい坂田くんが私の肩に頭をこてんと乗せて甘えてきた。なんだか今日はいつもより感情の波が激しい気がするけど、どうしたんだろう。ぐりぐりと頭を押し付けてくる坂田くんを見てそう思った。
なにかあったんだろうか。いや、そもそも大学の中でも坂田くんのことを見かけた事があるのは片手で数えられる程度だから、私坂田くんの私的なことについては何も知らないのだけど。まぁこうやって甘えてくれること自体は信頼されてるみたいで嬉しいし、彼の熱を肌で感じることが出来て胸の奥がきゅんとするから嫌いではないのだが。
「どうしたの、なんかあった？」
「それは……ちゃうねんけど、なんかね、なんか、Aちゃんに甘やかしてほしいなぁって」
「甘やかして欲しいの？……えと、頭撫でたげればいい？」
自分よりも歳上の男子であることも彼が既に成人していることも知っているのだけど、子供っぽいところを見るとどうしても何でもしてあげたくなってしまう。これが、私が彼に尽くしてしまう理由だった。
母性本能的なあれだろうか、こうやって子供みたいに甘えてくる坂田くんを見るとどうしても突き放せなくなる。大学で見かける時はこんな甘えたじゃないし、なんならずっと無表情でいるからまるで別人みたいなのに。
だからきっと、坂田くんのこの子供っぽい一面は私だけが知ってるんだと、そう思うとどうしようもない優越感が湧くのだ。多分彼は私のことを都合のいい宿、くらいにしか思ってないんだろうけど、それでも私はこうやって私に体を預けてくる彼のことが心の底から好きだった。
「(……雨、やまないでくれないかな……)」
昔は嫌いだった雨の日を心から待ちわびてしまうほど、私はこの恋心を拗らせている。だから私は弱虫で気持ちも伝えられないクセに、こうして彼の温度を感じる度に胸が苦しくなるのだ。
心臓が、恋心で濡れていく。
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作者名：作者一同 | 作者ホームページ：
作成日時：2021年7月29日 22時
