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『坂田』
「………」
『さかた〜〜〜』
「………………zzz」
帰りの新幹線が着くまで、あと十分なんですが。
人間の頭って意外と重いんやって、脳が大事やしそれを守る骨も沢山おるし。
結構前に聞いた医療系の豆知識を、まさか私の右肩に食い込む本人の頭で体感することになるとは。どんな夢を見ているのか知らないけれど、定期的にぐりぐりするのをやめてほしい。骨が軋むし髪の毛がくすぐったい。
私が本当は寝ているはずだったんだ、だってじゃんけんに勝ったのは私だから。でも先に寝落ちしたのは坂田で、だったらもう起きているしかない。東京で乗り過ごして名古屋まで行くのはさすがに勘弁だ。
『ねむいぞ、こら』
そんなことを言いながらすっかり許している自分に、重いと言いながら頭をどかす努力をしない自分に、もう気がついている。旅を通して驚かなくなった。
新しい景色も、インスタで見るキラキラカップルとはワンテンポずれた旅路も。新鮮なのにどこか懐かしくて、安心していて、日常の延長線上で。
それがちっとも、嫌じゃなかった。
全然、良かった。
どこに出かけてもどう変わっても、どれだけ彼と歩いても、もう大丈夫なんだと思う自分がいる。ゆっくりと一夏の慌ただしい思い出を振り返る中で、それでも坂田がフレームインしているだけで心の引き出しに大事にしまっておけるんだとわかる。
飽きたんじゃない。飽きることなんてきっとない。
決して理想通りじゃない、キラキラした写真の裏側の、撮影裏のドタバタも。笑ってしまうような失敗も。かっこつかない毎日も。
そんな日々が付加することを知って大人になっても。
それでも全部、大丈夫なんだと思う。
彼と隣にいれば。彼の隣で歩けば。
私の家は、私が愛する彼の隣に、いつだってあるのだから。
…………だったら、
『私もちょっと寝てやろうかしら』
一回目を閉じたら起きれる自信がない。乗り過ごしてしまうかもしれない。名古屋どころか、彼の出身まで行ってしまうかも――それ、でも。
彼の頭に自分の頭を預けて。起きたらおはようと言って。二人して寝過ごした、って笑って。
旅費は馬鹿にならなくなってしまうけれど、きっと、ちゃんと「『ただいま！』」って、言い合えるから。
『I'm Home By My Dear You!!』了
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作者名：作者一同 | 作者ホームページ：
作成日時：2021年7月29日 22時
