「思春期、秋。」by 鎖座波 ページ18
×××
一度だけ吐いた嘘が、どれ程にまで彼女を、自分を傷付けた事だろうか。
×××
「坂田、いつ帰ってきてたの？」
「んー、受験こっち選んでたから」
「それならもっと早く言ってくれれば良かったのに」
「なんで俺がAに……まぁいいや、ごめんな早く言ってれば良かったな」
久しぶりに再開した幼馴染との会話が、何故こんなにも歯切れが悪く、同じクラスメイトでもあまり喋ったことが無い子と二人きりになってしまった…と言う様な絶妙な空気感に似ているのだろうか。
昔はあんなに長く同じ時を過ごしていたと言うのに、久しぶりに会った幼馴染は髪もすっかり伸びて、女の子、女子、と言うよりは「女性」と形容した方が近しいような姿に変わって居た。俺の呼び方も、ゆう、から坂田に変わっていた。それだけではなく、茶目っ気があって、朗らかだった性格も、物静かでどこか大人びたクールな感じの性格に変わったように思えた。
海辺の風が強く吹き、幼馴染の髪が大きくぶわりと舞う。それを嫌がる様にして、幼馴染は顔を顰めながら左手で髪の毛を押さえつけて居た。
海と砂浜が広がる光景が何ともまぁ美しい。俺とAは海に降りるまでの階段近くの防波堤に二人並んで座っていた。
「聞いていいのか分からないけど……坂田が今日一緒に居たのって、彼女？」
「え？一緒に居ったのって？」
「言えないことだったら無理に話さなくていいよ」
「いやそういう訳やなくてホンマに思い出せ……あ、」
最初は幼馴染の言っていることが理解出来ずに、俺に何が言いたいのか、と腹を立てそうになった時に思い出した。
多分、今日途中まで一緒に帰らされた女子のこと。俺が好きでその子と一緒に居た訳では無いし、ましてや彼女だなんて有り得ない。
少し前に告白されて、俺が曖昧な返事をしてしまったばかりに今日までしつこく着いてきて、最後の思い出作りに、と放課後は家の近くまで一緒に帰って欲しい、と懇願された。
やむを得ずにそれだけは受け入れたが、まさかその時の光景を幼馴染に見られているとは思わなかった。
「彼女とかやないけど」
「けど、ってことは気になる子って事？」
「そんなん知って何になるん。Aには関係ない事やろ？」
「………そうかもね。」
久しぶりに話したこの雰囲気がぎこちなくて、未だかつて無い程にギスギスとしていて気持ちが悪い。
「俺さ、昔、Aの事好きやったよ。」
これが、最初で最後のAへの嘘。
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作者名：作者一同 | 作者ホームページ：
作成日時：2021年7月29日 22時
