【リレー小説】温度溶解【3L】 (ページ4)

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4.桃色の学校。【柏木玲/くるり】ページ4

「ねえ、だいすきよ」

記憶の中に踊った深く歪んだアメジストの瞳とやけに甘く喉が焼ける花弁が散る様を見る。
近づいてくる桃色の柔らかい唇を、僕は拒まなかったんだ。

＿＿息切れとため息。両方を吐いて目を覚ます。初春だというのに涼しい部屋の中で俺はシャツを汗で濡らしていた。身体に密着する布が鬱陶しくて、起き上がりながらシャツを脱ぎ捨てる。
時刻は７時。常ならばまだ寝ている時間だというのに、起きてしまったのはきっと彼女の所為なんだろう。

目の前にいないのに、自分に干渉する彼女に嫌悪感を覚えてベッドを出た。

少し前に買ったコンビニ弁当を冷蔵庫から出して、そのまま口に運ぶ。正直食欲は殆ど無いし、食べている間は何もする事がないから俺は嫌いだ。短調で、つまらない。

いっそ、毒でも盛ってあったらいいのに

常々そう思い、しかして他人に命を刈られるというのもなんだか癪に障り、そしてまた彼女を思い出す。俺の命を取ったのは、間違いなく彼女だろう。そう考えると、口の中へ甘い味が蘇って、それ以上口に物を運べなかった。

彼女の＿＿ローズの所為だ。

…ローズは「厄介」な存在で、ゲルトナーを惑わし、そして陥れ甘い蜜を吸う為に寄ってくる「害虫」で、世界で一番「無意味で無価値」な存在で、人の下にいる事しか出来ない癖して番になれば好き嫌いに関係なく支配するような、勝手を擬人化したような生物だ。
人間以下、動物以下。生物としてこの世を闊歩している事を疑問に思う程に嫌悪感を覚えずにはいられないモノで、

俺が嫌いな物だ。

…

あれ以上彼処に居たら、忌々しいローズの事を考えて気が狂いそうだった。
甘い香りと記憶がくるくる回る部屋にいるのは耐え切れない。絶対。だから俺は早々に着替えて家を出た。こんな早朝に家に出る羽目になったのはローズの所為だ。

特に何も考えず歩く。ふと人の声に顔を上げると、俺の通っている学校＿＿私立聴学園＿＿の前に立っていた。家と此処を往復する生活を送っているからか、足が自然と向かってしまったらしい。

やけに人が多い。ファーティもゲルトナーも…ローズも。相変わらずこの学園には彼奴らがうじゃうじゃと束になって存在している。世間一般的にゲルトナーもローズも少ない筈。それなのに何故彼らはこの学園に集うのか。

苛立ちを覚える俺の視界の端に、車が止まる。中からは上質な服に身を包んだローズ。
…決めた、次の標的は彼奴にしよう。

口角が上がろうとするのが分かった。