【リレー小説】温度溶解【3L】 (ページ1)

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1.百代琥太郎といふ男【百代琥太郎/響@雫3318】ページ1

「いっっっってぇぇぇぇーーー！！」

今日は本当に最悪な日だ！！！

＊＊＊

今日は朝から最悪だった。
双子の弟の琥珀を起こす為にいつも早起きを心掛けているのに、今日は寝坊した。
新学期の1日目は流石に出席しないといけない。琥珀は家からもう出ていた。あの裏切り者。
入学式が終わる頃に登校した俺はその後出席する気力も無く木に登り、その若葉と桜色を楽しんでいた。
けど、

「おい、琥太郎」

俺より少し低めの心地良いテノールの声が耳朶を打つと同時に、木が根元から揺らぐのを感じた。
咄嗟に掴めるものが無く、そのまま浮遊感に力強く目を閉じた。

バサバサバサ、と遠くから大きな音が鳴る。

その音が若葉と自分の体が擦れる音だと気付いた時には碧が虚空を彩っていた。

＊＊＊

そして、冒頭に至る。

「琥太郎、弁当どこ」
「ってめぇなぁ…っ！」

ズキズキと痛む背中を押さえながらも弟に抗議すると、その丸い複雑な色の中で輝く琥珀の瞳はまるで訳がわからないとでも言いたげに困惑を表している。
顔が良いなぁ。畜生め。
双子だとしても琥太郎はやはり琥珀の生き物としての造形が美しいと感じるのは辞めれない。昔から言う事に嘘はない、と先人は言っていただろうに。
昔からこの弟に俺は甘い。

「…今朝は、寝坊したから無い。」
「お前の当番だろ」
「母さんもお前も下手だからな。」

何を言っても無いもんは無い。と伝えれば心なしかしゅんとしながらも購買の方に歩いていった。
一言小さく、「ごめん」と残して。
ズキズキと痛みを主張する手の傷は嘘でも深くないとは言えない。傷口が脈打つ。
それをちゃんと反省して謝る弟に、頬が緩んでしまった。

「…仕方ねぇなぁ」

我が弟は今日も可愛い。

＊＊＊

百代琥太郎とはどういう存在か。

…知るわけないだろ。

＊＊＊

「いって…」

下手したら血が床に滴ってしまうかもしれないから早く保健室に行こう、と足を早めた。
百代琥太郎とは、自分でもフレンドリーで明るくて、優しい奴だと思う。
問題は起こしまくるけど、皆は俺をそこそこ評価している。
だから、この性格は捨てたもんじゃないと思う。
てか、捨てちゃだめだと思う。
痛みが脳味噌に血を送るのを諦めたのか、変な考えばかりが脳を支配する。

手の緋色が肌を彩る。
明るくて、優しくて、フレンドリーな百代琥太郎。
完璧だけど、

『なんか人間っぽくないよね』

どうなったらお前らは文句を付けなくなるんだ。

「ねぇ、先生いる？」

一刻も早く、消毒して頭を痛みで支配したかった。