【リレー小説】希望と絶望、人類の【第1頁】 (ページ9)

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9.困惑、乃至絶望の予見【アペルピスィア・ツィオーネ/茶々(ピンク)】ページ9

－－入学式。

其れは様式美と言うべきか、絶対的な必要性が無いにも関わらず現代まで受け継がれている、入学の際の式典。

王が三人も居るものだから－－そして彼ら全員が思わず眠気に襲われるような素晴らしい(・・・・・)挨拶をするものだから－－実に長い其れを、僕は背筋を伸ばして耐えていた(余談だが、背筋を伸ばしてというのは入学式に対する精神的な要因から来るものではなく、最近猫背が酷いことを流石に気にし始めたことによる)。
と言うのも、流石に入学式早々眠るというのは自身の信条に反するのだ。『楽出来る時は徹底的に楽をし、然し目立つ行動は避ける』、絶対不動且つ永遠たるこの信条。生まれてこの方、父の前で以外はこれを破ったことなどない。そして如何してたった今信条を唱えているかと言えば暇の一言に尽きる。

「－－にもなるからね！」

其処で僕は、暇が過ぎて宙を彷徨っていた意識をやっとのことで捕まえた。拙い、いつの間にか王の話なんて終わっている。アレは誰だ？王族だろうか、ああいや、にしては厳かさに欠ける。噫、駄目だ、全く思考が纏まらない－－そう思った刹那、ばちんと夢現の心地が覚めた。「ッ、吃驚、したぁ……」思わずそう零す。冷たい何かが額に触れた。水だろうか。

「入学おめでとう。アイリス学園へ、ようこそ」

どうやら先程の何かは壇上の彼女がした事らしい。そう言えば祝いの何とか、と聞こえた気がする。入学式はもう終わりらしく王の声と共に周囲の新一年生達が席を立ち、各自見取り図を見ながら、彼方だ、いや此方だと教室の方向で迷っている。
さて－－僕も教室に行かないと。
新しい革鞄の中から貰った紙を引っ張り出し、先ずは体育館の外に出ようと見取り図を眺める。……ん？ちょっと待て、何だこれ。

「……教室、ない」

見間違いだろうか。いやいや、そうに決まっている。学園見取り図に教室が記載されていないなんてそんな馬鹿な話が……。

眼鏡を一度外して目を擦り、再度テンプルを慎重に耳の上に通し、見取り図を見直した。

噫、やはり教室は無い。良かった、自分の視力がこの数分で激的に下降したかと心配になった。

「全然良くないんですけど……」

早々にこれだ、幸先が悪い。兎に角目立つ行動は避けなければ。正しい行動を、大多数の人間(マジョリティー)と同じ行動を。取り敢えず同じ境遇の人間を捜し、僕は半ば助けを求める形で辺りを見回した。