【リレー小説】希望と絶望、人類の【第1頁】 (ページ15)

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15.多数派＝擬態指標【アペルピスィア・ツィオーネ/茶々(ピンク)】ページ15

"入学おめでとう"の言葉は実の所何の利益も生みはしないし、もっと有益な情報を教えて欲しかったと、アペルは口の中で呟いた。そう、具体的には部屋同士の移動最短ルートと教室の場所を。

所在なく視線を彷徨わせる。何人かは連れ立って何処かに向かっているが－－恐らく共有スペースだろう－－大抵は困ったようにざわついているだけだ。噫、良かった。迷っているのが自分でないということは、詰まる所全てあの王と王族の説明不足のせいに出来るということだ。

本日何度目かの溜息を着いた直後、騒めきに紛れて声が聞こえた。

「学園－－が……！－－、着いてきて！」

遠目にも壇上の女生徒が口に手を当てて何か喋っているように見えたので、彼女が叫んだので間違いないのだろう。戸惑った様子で彼女に着いて行く人々の後ろを、アペルもまた同じように着いて行った。

＊＊＊

「此処だよー。共有スペースの隣。覚え－－」

後ろの方に並んで部屋の前に案内され、初めて彼女の言葉を初めから聞いた。
いや、最後の方はあまり聞いていないが其れは其れとして、何だか微妙にノーマルから外れているのにアブノーマルになりきらない彼女は好んで視界に入れたいタイプじゃない。

要点だけ聞き取れたらもう其れで構わないし、ある程度チュートリアル的説明が終わったらさっさとゲーム……いや待て。この女なんと言った？"共有スペースの"……いや、もっと前だ。そう、－－"教室がない"？

「嘘、でしょ……」

いけない。これは実にいけない。何が駄目かなんて自明の理だ、教室という場所がなければ自分のような人種は何処に居れば良い？

人が少ないのは駄目だ。万一集合をかけられた際に気付けない。行くの忘れてた、遅れて途中登場、なんてそんなこと死んでも御免だ絶対に。

じゃあ娯楽室？真逆。そんな所に行く位なら両腕両足をもいででもこの学園から立ち去る。

教室という無条件に生徒の大多数が集まり、其処に居ることにプレッシャーがなく尚且つ特別な理由付けが要らない空間は他にない。スタディールームだって？おいおい笑わせないでくれ。教室に勝るものか。

向こうで文化祭が何とかとか笑えるくらいに馬鹿みたいな話が聞こえるが、そんなことは良い。今は。隣の話に耳を傾けるには、アペルは目先の問題にショックを受け過ぎている。

「もうやだ……」

アペルは顔を覆ってしゃがみ込む。
王族の娘の盛大な溜息と、恐らく誰にも聞こえない小さな嘆きがリンクした。