第9章 ページ10
「何秘密って！」
十四松くんが身を乗り出して聞いてくる。
「関係ないわよ、ご馳走様」
席を立つと六つ子は納得いかなそうな顔をする。
言い方は自分でも思うくらい冷ややかで、傷つけてしまったかもしれない。だがそんな心配も要らなかったようで、台所に食器を置いて戻ると何時ものようにゆったりと人の家でくつろぐ六つ子の姿があった。
「もう！お昼ご飯は食べたでしょ！早くお暇してちょうだい！！」
私がそういえば、「ええーー」と言いながらもむくりと立ち上がる。何のために来たのか全く理解できない。ただこういう事は多々あるから、それほど疑問を抱くことは年を重ねることに連れ無くなっていった。
玄関で六つ子が自分達の家の方に帰るのを見送り、自室に戻る。
未だ手を付けていない課題の山。高校3年だというのに、私は何をしているのだろうか。
進路は、進学ではなく就職を選んだ。
希望は飲食系の物に就きたいと書いたが、具体的な物は考えていないし、そもそも飲食系になんか就くつもりはない。
将来の事は、その時になってからでいいか。
そんな余裕が募る。
次の日、私は9時に学校へ向かった。
胸を弾ませながら行った美術室には既に彼の姿があった。
「おはよう」
昨日と同じように声をかけると、返ってくる返事。
「おはよ、弱井さん」
初めて見た時よりも進んでいるAくんの絵をまじまじと見つめた。
「これ、もうすぐ完成するの？」
「うん、多分今日中にはね。」
「そしたら…もう来ないの？」
私がそう言うと、Aくんはうーんと考えるポーズを取った。
「描く題材が決まったら、これからも描くよ」
その言葉に、安堵した自分がいた。
何言ってるのかしら、Aくんの事、恋愛感情で好きっていう訳でもないのに。
そう自分に言い聞かせていると、何故か虚しくなった。そんな私を他所に、Aくんは筆を走らせる。
以前は気にならなかったけれど、よくよく見れば、なんていう手さばきだろうと思った。
迷いもなく描かれていく青、橙…。
「凄いなぁ…」
吐息のように漏れた私のその言葉にAくんは気付かずに、ただ天井に昇っていって、空気に溶け込んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 48人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「男主」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しずく@眠たがり(プロフ) - もう更新はされないのかな…？ (2019年2月7日 11時) (
レス) id: 2e94dfd782 (このIDを非表示/違反報告)
カノン(プロフ) - 男主のトト子ちゃんのやつ、少ないから嬉しいです！めっちゃ面白いですね！！ (2017年10月10日 16時) (レス) id: 329393c0db (このIDを非表示/違反報告)
トト子ちゃんは天使 - トト子ちゃんの小説あまりにも無いのでこのような作品があり嬉しいです！！orz ありがとうございます更新楽しみにしております(((o(*ﾟ▽ﾟ*)o))) (2016年2月3日 11時) (レス) id: 5025687234 (このIDを非表示/違反報告)
れおん。(プロフ) - 個人的には、六つ子のかで、一番好きです！（笑） だから、このような作品を作ってくださり、ありがとうございます！！ 自分自身も、書いているのですか、まったく続かず。その文才を是非わたしに！(^◇^;) 更新、頑張ってください！ すーっごく、応援してます！ (2016年2月3日 7時) (レス) id: 36f06c9cc6 (このIDを非表示/違反報告)
異脳 - トト子ちゃん可愛いですね！更新頑張ってください！ (2016年2月1日 23時) (レス) id: 6b1eec1aff (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：桜風 金魚 | 作成日時：2016年1月26日 21時
