第一話 忘れないあの日のこと＃2 ページ3
『悪魔……その通りだな』
ふと呟いた俺の言葉に、謎の男性は頷き認めた。黒く、紅い目が俺を見下ろしていた。
『んで、どうだ？力が欲しいか？』
正直に言うと迷った。戦いたかったからだ。戦えるほどの力を欲しいかと、言われれば欲しい。地獄から皆を救いたい。家族を、友達を失っているのかも知れない。だったらその子たちを守りたい。でも、怖いのだ。悪魔と契約なんて、供物は魂なのだろう。
「……」
答えられなかった。冷たく見つめる悪魔の目に体が強ばり、震える。戦わないと。動かないと。そう思っていても、恐怖には適わなかった。
『迷ってるのか？ニンゲン』
「力は欲しい。だけど供物の魂はあげたくない」
ケラケラと笑う悪魔はそう聞いた。俺は嘘を吐く理由もなかったため、正直に言った。すると、悪魔は【ポカン……】と唖然した後すぐ腹を抱え笑った。
『あーはっはっはっ！！ニンゲン！まじか！』
「な……何が可笑しいのさ」
『俺の言い方が間違えたな、悪い悪い。ニンゲン、お前の力を貸して欲しい。魂はいらない』
笑いのツボに入ったらしく、腹を抱え笑う悪魔に俺は声を荒げた。悪魔は最初笑っていたが言い終わる頃には真剣だった。悪魔が俺の力を欲している。どういうことだろう。何故、俺なのだろう。
『俺は元、天神の使いだった。だけどな、天神は傲慢な奴で気に食わないと理由で俺を堕落させた。つまり俺は悪魔……堕天使だな』
「……天の神に復讐したいの？」
『あぁ、俺は復讐したい。天の神を殺したい程にな……所謂、憤怒を司るサタンだ』
サタンと名乗ったその悪魔は天の神を憎んでいるようだ。天の神は傲慢な神らしく、気に食わないという理不尽な理由で堕落させたみたい。知っているサタンは神の怒りを買ったということなのだが……どうやら違ったようだ。
『でだ。俺は神を殺せない……いや、殺せなくとも良い。彼奴の行動がムカつくんだよな』
「……それで俺にって？」
『あぁ、魂はいらない。ただ彼奴に、天の神に一矢報いたいだけだ。だから、お前の力を貸して欲しいんだよ。ま、彼奴はそれだけじゃ止まらないだろうけど……300年ぐらいは眠ってて貰いてぇ……どうよ？俺は天神に一矢報いたい。お前は戦える力が欲しい』
悪魔はそこまで言うと｢良い契約条件だろ？｣と微笑んだ。確かに、良い契約条件だ。win-winの関係だ。俺はもう迷わなかった。チャンスなのだ。
「契約する……俺に力を貸してくれ」
そう言ってから俺は─────。
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作者名：猫崎一恋 | 作成日時：2022年2月15日 18時
