僕は君に2度恋をする【Hayato.K】 (ページ28)

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龍｢なんや隼、今日は随分早いなあ｣

次の日、午前中だけのリハを終えて

早々にスタジオを出ようとすると

龍友くんがそう言った。

｢ちょっと用事があって、｣

失礼します、と扉を開け外に出ると、

後ろから玲於が僕の名前を呼んだ。

玲｢気をつけろよ｣

何かを察したのであろう玲於に

僕は頷いて、スタジオを後にした。

電車に1時間ほど揺られ、

目的の場所に着くと

海風が吹き付けて思わず身震いをする。

マフラーをもう一度巻き直して

ゆっくりと歩みを温めて

あの、砂浜へと向かった。

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2人でここに来たあの日は初夏の陽気だった。

でも今はまだ春先で、

特に海岸と言うものはかなり冷える。

静かな波の音に、時折聞こえる風の音。

目の前に広がる景色は

あれからもう1年半が経ってるというのに

何も変わらなくてまるで

僕のようだ。

季節が移り変わっても

僕の心は何も変わらない。

あの日から僕の時間は止まったままなんだ。

ふと見上げた空はあの日よりも青く、

高く遠くまで透き通っていた。

ああ、やっぱり僕はどうしようもなく彼女が好きだ。

最後だからとこの場所に来ても

僕は彼女から離れられない、

離れたくない。

砂浜に書いた2人の名前は

波にさらわれていった。

どうしたって僕は、弱い僕のままだ。

終わりにしようって、最後だからって、

ここを訪れたはずなのに、

次に進むってそう決めたのに、

いざここに立てば、

今まで耐え続けていた涙が一気に溢れ出した。

君が出て行ったあの日から、

一滴も流さなかった涙。

泣きたくても泣けなかった涙。

｢っ……A、ちゃん…っ、｣

きっとこの涙は、1年分の涙なんだろう。

だから一層の事、流し切ってしまおう。

｢っ、すき、だよ…っ、だいすき、だった、っ…｣

もう、本当にこれで最後にするから

この手で君を幸せにすることが出来ないのなら

今日から僕は前に進むから

下を向いて砂浜に零れ落ちていく

涙をただずっと見ていた。

何となく顔を上げれば

目に映る光景に僕は息をすることも忘れた。

少し先に、僕と同じように泣いて

海を見つめる彼女が立っていたんだ。

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