【名探偵コナン】お得意様の喫茶店【安室透】

20.早朝 ページ24

「おはようございます」

『えっ、おはようございます…まだ開店の時間じゃありませんけれど…？』


開店準備に取り掛かるぞ、というところでドアが開いた。ポアロのバイトに、探偵に、と掛け持ちしているのに朝に余裕がある生活をしているのか。


「昨日のお菓子、どうでした？」

『ああ、とても美味しかったですよ。』

「本当ですか？それは良かった。」

『まさか、それだけを聞きに来たわけじゃないですよね？』

お菓子の味だけを聞きにここに来たのであれば、それはどれだけ神経質な男なんだろう。


「…やはり。ええ実は少し。最近悩み事がありまして。」

『あー、お悩み相談は受け付けてないんですよ。でもまあ、たしかに少し顔色悪いですね。寝不足ですか？』

「…はい。そんなにわかりやすいですかね？」

『まあ、接客業やってるんです人の顔色くらいは分かりますよ。寝不足と疲れでしょうね。家に観葉植物でも置いて癒されたらどうです？』

「観葉植物？」

『好きなんですよ植物。特にパキラとかモンステラとか。』


パキラは実際に家に置いている。乾燥に強い上に日陰でも大丈夫。忘れがちな私にとても優しい植物なのだ。


「……そうですか植物が。…なるほど。パキラとモンステラ。」


『そんなに深刻な顔で悩まれても、軽い冗談と思っていただいていいのですから。』




眉間にしわを寄せ、口元に手を置きブツブツと独り言を呟く彼は本当に疲れているようだ。



『あの、安室さん。疲れてるなら家に戻った方がいいのでは？』


ここまでくると同情する。彼の顔の良さと無駄のない完璧な動きに嫉妬していたし、豆の無駄が増えたことに怒りも持っていた。しかし、流石にかわいそうだと思う。私だって、人を心配する思いやりは持っている。


探偵が不定期な仕事とはいえダブルワーク。それにこの前の居酒屋の時の、彼の泣き出しそうでいて、怒り狂ったような顔がフラッシュバックしてきた。

私は弱いものには情けをかけてしまうのだ。これはきっと誰にでも備わっている性質で、私だけのことでもない。

自分のせいで、何かが不幸になることは望まれない。



『安室さん。』

「はい？」

『これ。クッキーのプレゼントです。詰め合わせセットです。』

「…なんでですか？」

『なんでって？』

「いえ、なんでも。」

『健康は大事ですよ。忙しいとは思いますが、夜くらいは休んでゆっくり眠りましょう。』

「ありがとうございます」


『お大事に。』

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