9，やっぱり、好きなのかもしれない。 ページ9
徒競走優勝者の辞退により、会場はブーイングに包まれた。それでも2種目、トーナメント戦、決勝戦と進んでいくうちに、そんな空気も和らいでいった。
そして体育祭優勝者のメダル授与の時、会場は今日1番の盛り上がりを見せた。
「天喰くん。」
会場を出ようとすると、少し違和感のある足取りで歩いてくる本田さん(娘)が声をかけてきた。
「明後日、取るんでしょ。免許。」
「ああ……まぁ……」
「先輩からひとつアドバイス。時間は絶対守って。ああいうのは時間に厳しいよ。公安の管轄だから。」
「……トリプルフェイスの？」
「……あの人とは違うんじゃないかな。」
慣れないボケた発言なんてするもんじゃないと思った。
微妙な空気の流れに、見かねた本田さん(娘)が咳払いをする。
「とにかく、時間厳守。覚えておいて。」
「うん。ありがとう。」
ジャージの上に着た薄手のコートを翻し、校門の方に歩いていく。
「あ、そうだ。」
「ん？」
彼女が再びこっちを向いた。
コートが翻る度に、タバコの匂いがする。
「頑張って。応援してる。」
「……ありがとう。」
その匂いが彼女のものであるのか、彼女の親から移ったものなのかは分からない。
けど、それを本田さん(娘)が纏うと、不思議と具合の良くなる匂いになる。
伽羅、アガーウッドの高級な香りにも勝るとも劣らない。
「それじゃあ。」
一説に、自分にとって特別な人間は、どんなところも愛おしく思えると言われている。
俺は、やっぱり。
───
──
疲れた。
2日前の彼女の励ましがなければ、途中でリタイアするところだった。
あの子の頑張れを貰っておいて、試験を棒に振る訳には行かない。
家の前に立って、ピカピカの原付免許を見る。
「やった……」
「何がやったの！？」
「うぇっ！？」
ミリオが背後にいた。
「あー！！免許！！取れたんだね！！おめでとう！！」
疲れと驚きで腰が抜けた。
騒ぎを聞きつけて、両親が俺たちを家の中に入れる。
「そっかそっかー、環受かったんだー。」
「さっきの威勢はどうしたんだ……」
「特に意味は無いぜ！！」
「威勢を戻すな。」
後ろでバイク屋さんに連絡を取っている父親の声が聞こえる。
「それで？本田さんとは上手くいってるのかな？」
「この間、頑張れって言われた。」
「うん。」
「とても嬉しかった。」
「いいね！」
「あとバーローって言われた。」
「うん？」
「とても嬉しかった。」
「変態かよ！」
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作者名：雪羅 | 作成日時：2021年10月24日 22時
