��.「わるいこ」 ページ10
こんなところに爆豪勝己がいるわけがない。
そもそも彼が異端の所業を知っているわけがない。
彼は、天使が変身により化けた姿である。
操作能力によって異端の本命は初めから割れていたので、掃除の際は彼に化けることが決まっていたのだった。
「なァ、お前、醜いな」
低く低く、囁くように爆豪に化けた天使は告げる。
軽蔑しているような、嫌悪しているような、憎んでいるような、そんな表情で。
「なに考えてこっちに来たのかは知らねえけどよ、迷惑なんだよ」
「俺らはヒーローになるために毎日必死にやってんのに、恋愛脳が頭突っ込んで来ようとしやがって」
「あまつさえ敵側のスパイと来やがった」
「ち…ッ」
BOM！
ちがう、と異端は言いたかったのだろうが。
その前にAが掌で小規模の爆発を起こせば、ひるんだ様子で口を閉じる。
「自分を愛してくれていた親ころしてまで何したかったのも知らねえが」
「――断言してやる。耳かっぽじってよォく聞けや」
「俺は、てめェが、大ッ嫌いだ」
目を見開いた異端がなにかを言おうとする前に、天使は異端から背を向けた。
「てめェが片付けろや、カナリア野郎」
「ん」
Aはそれに軽く返事をしてから、異端に掌を向けて、また『爆破』の再現をする。今度は大規模のものだ。
BOOOOOOM！
大きな大きなそれに感覚の一切がかき消された間に、天使は姿を戻してAの傍に戻ってくる。異端に姿を見せる気はないようだ。
天使が展開したこの異空間の中においては、翼をしまっていなくとも任意で異端に天使自身の姿を視認することができるようにすることが可能らしい。
「…」
異端はまだ目を開けていられない。
だからAは、こう告げた。
「ワン・フォー・オール、100パーセント」
「！？」
「――SMASH」
再度背中に叩き込めば、声にならない悲鳴があがった。
けれど興味はない。どうでもいい。
Aの役割は、異端が未練を抱けないほどに苦しめて苦しめて、消すことなのだから。
「わるいこは、しまっちゃおう」
天使によって治癒されながら、異端は呆然とAの言葉を聞いている。
その数秒後、意味をただしく理解して――悲鳴を上げて、逃げ出した。
その背中がある程度遠ざかってから。
Aはゆっくりと歩いて、異端の後を追い始める。
その手に銃を具現化して、あえて外して撃ちながら。
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作者名：樹山 | 作成日時：2017年10月15日 2時
