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『は、ふっ、』
雪の頭いっぱいにアルファの、冴の香りがひろがる。ベッドの上に散乱した服は皺がより、汗が染み込み、オメガのフェロモンがベッタリとついていて、もう一度洗濯しなければならないほどになっていた。それでも雪はクローゼットの中にある服を全て出す。
『さえ、さえ』
アルファの、冴の匂いがついた服に埋もれながら雪は、欲を満たすようにその香りを吸い込む。そうすれば、先程よりも楽にはなるが、より一層求めてしまう。
触って欲しい。抱きしめて欲しい。キスをしてほしい。愛して欲しい。そんな欲が溢れる。しかし、その欲を満たしてくれる冴はここにはいない。その現状が雪を悲しみの底へ落とした。
『さえぇ……』
雪は泣きながら番の名前を呼ぶ。子宮が苦しく、雪の中でアルファを求める感覚が鮮明になってゆく。熱い、苦しい、切ない。その感情だけが雪の心を支配する。それでも、冴の愛に溺れるほどに愛された夜のことが雪の頭に浮かぶ。思えば思うほど恋しくなる、愛おしくなってしまう。
『ごめんなさい、』
冴を思うたびに雪は呼吸が荒くなり、汗があふれ、じんわりと可愛がられたことろが濡れる。そんな中、雪の視界には冴のユニホームが映る。その途端に罪悪感と羞恥心と不安が募ってゆく。
冴の大切なユニホームで、わたしがこんなことをしていると冴が知ったらきっと、きっと。
そこまで考え、雪は冴に捨てられるかもしれないと恐怖に包まれた。しかし、それでも手に握られたユニホームを離すことはできなかった。雪は冴の服に包まれながら、冴の帰りを待っていた。
暫くして、玄関のドアが開く音が雪の耳に届いた。冴が帰ってきたのだ。近づく足音に雪は希望と期待、そして不安を抱く。
果たして冴は自分を抱きしめてくれるだろうか、それとも幻滅して捨てられてしまうのだろうか。不安を隠すように雪はユニホームを握る。
「雪」
『冴』
ずっと、ずっと待っていた愛おしい声に名前を呼ばれ、雪はユニホームから恐る恐ると顔を上げる。自分を写す冴の瞳には失望の色があるのだろうか、そう恐怖を抱きながら雪は浅葱色と目を合わせた。
「偉いな」
『、え』
しかし、そこには失望も幻滅も存在していなかった。ただただ、愛おしいものを見つめるような熱だけが籠っていたのだ。雪は冴に抱きしめられ、頭を撫でられる。
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うつ(プロフ) - レンヤさん» コメントありがとうございます!レンヤ様のオメガバースを好きになるきっかけになることができてよかったです🫶🏻楽しみにして頂いてありがとうございます🙇🏼♀️💕応援してくださってとても嬉しいです☺️ (2023年4月21日 13時) (レス) @page8 id: c201149121 (このIDを非表示/違反報告)
レンヤ(プロフ) - 初めましてコメント失礼致します。作者様の前作にオメガバース作品の良さを教えて頂きました✨ 続編を作られていてこれからの続きが凄く楽しみです!かげながら応援しております!! (2023年4月21日 8時) (レス) id: 315830c04e (このIDを非表示/違反報告)
うつ(プロフ) - 砂時計さん» コメントありがとうございます。続編も読んでくださりありがとうございます、!ドロドロ甘々なお話を目指しているのでそう言って頂けてと手も嬉しいです😿♡これからも二人のドロドロイチャイチャ生活を見守っていただけると幸いです💕 (2023年4月10日 11時) (レス) id: c201149121 (このIDを非表示/違反報告)
うつ(プロフ) - 真昼さん» そう言って頂けてとても嬉しです、!不定期更新ですが、気長にお待ちください🫶 (2023年4月10日 11時) (レス) id: c201149121 (このIDを非表示/違反報告)
砂時計(プロフ) - コメント失礼します。続編、おめでとうございますっ、また、お二人のお話を読むことが出来てとても幸せです😭♡ 作者様の仄暗さと甘ったるさの詰まった感情描写がとても美しくて好きです。これからも作者様のペースで更新のほど頑張ってください!! (2023年4月1日 9時) (レス) id: 9f48da2d13 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:うつ | 作成日時:2023年3月20日 9時