美味しい恋はご飯から (ページ10)

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お手軽インスタント味噌汁3 ページ10

お構い無く、と言える空気でも無くて私は借りてきた猫のように大人しくその音を聞いていた。

床に置かれたままの木全くんのスマホはゲームが中断されたままの画面になっていて、スライムに手足がついたような見慣れない生物がブロックをよじ登っている途中で固まっている。赤と黄色が混ざったような色の身体はぐにょぐにょとした感触がしそうな気がする。振り向いたこの子はどんな顔をしているのだろうか。姿形はあまり可愛いとは言えないけれど、愛嬌のある顔つきをしていたらまだ好感が持てるのかもしれない。

「はい、どうぞ。朝ご飯です。僕食べるのは好きですけど、純喜くんみたいに料理得意じゃないからインスタントですけど」

運ばれてきたのはしじみの味噌汁と、お茶漬けだった。どちらの椀からも湯気が立ち込めている。楽に用意出来る割にそれなりに美味しいインスタント食品は私も愛用している。独り暮らしで立派な朝食を用意するほど食に気を遣わない私も頼りきっている現代文明だ。

先程までこの部屋は私にとって異質でしかなくてアウェイな空間でしかなかったというのに、簡素なメニューがテーブルに並べられた途端、ここに居ることを許されたような気がした。

ベッドから下りて木全くんと向かい合うように座ると、いただきます、と手を合わせて味噌汁を啜った。木全くんはお茶漬けを先に食べている。

「Aさん、昨日どんな話したか覚えてますか？」

ふーふーと、息を吹きかけて冷ましながら木全くんが思い出したように問い掛けてきた。

「えぇ……いや、……微妙かな。ちょこちょこ覚えてるけど、何か大事な話した？」
「そうでもないです。覚えてないなら別に今はいいかな、くらいの話なので」
「今はってことはいつか必要になるんじゃないの？なに、気になる。覚えてなくて申し訳ないけど、教えてよ」
「今は、いいです」

頑なに、教えるつもりは無いらしい。そもそも覚えていない私が悪いわけで、これ以上追求するのも気が引けた。

結構冷ましていたというのにそれでもまだ熱かったようで、米を頬張った木全くんは微かに眉を顰めながら水を飲む。会話は途切れてしまって、箸が器に当たる音だとか些細なものだけが辛うじて静寂に抵抗していた。

「また何か食べに行きましょう」

散々面倒をかけたはずなのに、物好きな人だ、と思った。どういう意図なのかは読めない。

ただ味噌汁もお茶漬けも、酔い明けの身体には丁度良い優しい味だった。