美味しい恋はご飯から (ページ9)

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お手軽インスタント味噌汁2 ページ9

木全くんの宥めるような台詞を何度か頭の中で反芻した結果、私は頭を上げなかった。
つまり要約すると何かしていることには変わりないわけだ。素直な返答はありがたいような、いっそのこと知らない振りをしていて欲しかったような複雑な気分だ。

「や、誤解です。僕には何もしてないです。どっちかといえば被害者はAさん本人だから、とりあえず鞄の中身ばら撒いてたので無くなった物無いか確認しましょう」

ベッド脇に置いてくれていたらしい私の鞄を木全くんから渡される。大して高い鞄でも無いのだが、表面に微かに何かに掠れたような白い線が刻まれていて、妙に安っぽく見えてしまう。記憶にある内でこんな傷は無かった筈だから、恐らく中身をばら撒いたらしいその時にでも付けてしまったのだろう。

スマホに財布、ポーチとキーケース。2軒目に行く前に一瞬部屋に立ち寄り、書類やら何やら仕事に必要なものは出してきていた。すかすかで容量の余りまくった中身ではあるものの、無くした物は無いようだ。

「……面倒を、おかけしました」

さすがにこれ以上土下座を重ねたところで気を遣わせてしまうだけのような気がして頭を上げるものの、酔い潰れた上に記憶まで無くすという失態を犯した身で口に出来る言葉など限られていた。

穴があったら入りたいどころか暫く身を潜めて冬眠してしまいたいくらいの気持ちだったが、木全くんは何とも無さそうに全然、とだけ笑って見せる。優しさが過ぎると逆に居た堪れない。純喜の介抱をした後の私のように文句の一つや二つ言ってくれた方が清々しい気がするのだが、出会ったばかりの先輩という立場の人間にそんな反応を強要するのも酷だろう。

壁際のハンガーラックには木全くんの衣服の隣に私のジャケットが並んでいる。着たまま寝てしまっては色々と悲惨なことになるのはわかりきっていて、丁寧に扱ってくれていること自体が優しさの表れではあるのだが、本来の居場所では無い場に吊るされてはどうにも居心地が悪そうだった。

「折角だし朝ごはん食べましょうか」

今からどんな行動を取るのが最適解であるのかを私が見極めるよりも木全くんがふと思い付いたようにキッチンへと向かう方が早かった。

少し広めの部屋は10畳あるかないかくらいに見えるが、造りとしては独り暮らしには定番のワンルーム。キッチンは廊下に併設されているようで、開け放たれた扉の向こうからがさがさと何かを探る物音が聞こえてくる。