お手軽インスタント味噌汁 ページ8
目を覚ましたら朝だった。
それは当然のことなのかもしれないけれど、何が困るかと言えばいつ寝たかという記憶がない。そして今自分がどこにいるのかもわからない。
これはまだ夢だと思えたら楽だったのだけれど如何せんそこまで現実逃避をするわけにはいかないと、人生26年目の勘が告げている。
寝起きの割に冴えた頭で辺りを見回してみるが、やっぱり見覚えのない場所だった。薄紫のカーテン、ハンガーラックにかかったメンズのカッターシャツ、そしてベッドの下には、寝転がったままスマホを横向きにして何かのゲームをしているらしい木全くん。
「……え？木全くん？」
「え、はい、木全です。おはようございます？」
状況が飲み込めない私とは対象的に落ち着いてた様子の木全くんは、スマホを置いて起き上がった。
「ここ、木全くんの家……？」
「僕の家ですね。Aさん昨日のこと覚えてますか？」
「え、っとね……ちょっと待って、思い出す、思い出すから待ってて……」
記憶を探ってみて辿り着くのは純喜を送り届けた後、木全くんの行き付けの店へ連れて行ってもらったところまでだった。加えるなら出てくるメニューがどれも美味しかったこと、それなりのハイペースでビールを飲み続けたことは覚えている。頭がぼやけているのは果たして寝起きだからなのか、それとも酒のせいなのか。
「……すみませんでした！」
全てを思い出せない以上、とりあえず謝っておくしかない。ベッドの上で出来るだけ居住まいを正して、ほとんど土下座に近い形で頭を下げると、木全くんは頭の上に疑問符を浮かべたまま首を傾げる。
「何で謝るんですか？Aさん何かしましたっけ？」
「いや正直覚えてないけどその時点でやばいし、木全くんの家でベッドまで乗っ取って寝たみたいだし。……って言うか私それ以上何かしてない！？した！？大丈夫！？」
記憶を飛ばすほど酔う経験なんてこれまで殆ど無かったというのに、まさかこの歳になって後輩に面倒をかける形でやらかしてしまうとは情けない。仮にこれで何かしていれば、土下座どころでは済まない。今すぐ家に帰って退職届を認め、荷物を纏めて実家にでも帰るところだ。その時は純喜に今までお世話になりましたと挨拶くらいはしておこう。
「何かしたかどうかで言えば全く何もしてないわけでは無いですけど、そこまで焦ることも無いので謝らなくていいですよ」
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作者名：五十鈴玲音 | 作成日時：2022年5月10日 3時
