社食のスペシャルランチ2 ページ2
「初めまして、木全です」
高いテンションで紹介をされたわりに冷静な挨拶を返してきた木全くんは、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべた。加えて少し幼さを感じさせる顔付きが人懐こい印象を与えて、警戒心というものを生じさせない。第一印象は重要だと言うし、なるほど、確かにこれは営業職向きの人材かもしれない。
なんて、脳内でそれっぽい講評を述べてみるが、そんなものは木全くんの前に据えられたお盆の上を見た瞬間に、どこかへ吹き飛ばされてしまう。
「は、やば、何それ……」
「え、これはハンバーグ&ジャンボとんかつwithミックスグリル定食の大盛りですけど」
「いやそんな明らかにメニューに載ってないものを当たり前ですけどみたいに言われても」
「な？凄い奴来るって言うたやろ？」
大盛りだとかそんなレベルではない。どちらかといえばもはや山に近い。揚げ物と揚げ物、肉と肉のパレードのような木全くんの食事と比べれば純喜の大盛りカレーくらい可愛いものだ。
まだこれがとても体格の良い人の食事だと言われれば理解も納得も出来る。しかし木全くんはどちらかといえば細身で、それだけの量が入るようにはとても見えない。しかし、私が圧倒されて呆けている間に木全くんはどんどんと箸を進めていく。
「よう食べてよう働く。これこそ営業部の期待の星にぴったりの素質や」
「そのポジション、この間まで純喜のものじゃなかった？引退したの？」
「言い方！譲ったんやって！俺は統率する側に回ったからな」
「あ、そっか、昇進おめでとう。お祝いするの忘れてたね」
先日出た内示で、純喜は見事昇進を果たした。営業部の役職にはあまり詳しくないけれど、確かチーフとかその辺りの立場だったはず。このまま順当に進めば来期には課長も夢では無い。
待遇は悪くないがそれに比例して求められるレベルも高い、そんな会社だ。大概の同期は3年目に至るまでに辞めてしまった。各支社にはまだ残っているものの、本社勤務の同期はもう純喜だけ。貴重な存在であるからこそ、昇進はきちんと祝おうと思っていたのにすっかりと忘れていた。
「ほな今日飲み行こうや！俺の昇進祝いに、Aの奢りで！」
「絶対めちゃくちゃ飲む気でしょ……いいけど、私もうあんたを部屋まで送り届けんのやだからね」
「ええやん別に。どうせ社員寮なんやから帰るとこ一緒やし」
「お、も、い、の！自分の筋肉量考えて！」
「あ、じゃあ僕もご一緒させてください」
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作者名：五十鈴玲音 | 作成日時：2022年5月10日 3時
