世 ページ2
時代は変わり、科学が進化した現代。
「なあー！今日こそ教えてくれよ」
「嫌です」
「えー……」
「貴方も懲りませんね。私に話しかけないでください」
書類をトントンと、机で整えて前の人に渡す。
「出た、橘のストーカー」
後ろで話を聞いていた席の人が、からかうように言う。
「ちげーし！俺は！！ずっと気になってんの！！
同級生なのに、俺にだけ敬語なところとかさぁ俺にだけ冷たいとかさぁ」
嘘泣きをする演技をわざとらしくする。
そして、私にこそっと耳打ちをして来た。
「入学式の日に、なんで泣いたのか」
私の名前は橘A。ごく普通の一般家庭に生まれ、母、父、弟の4人暮らしだ。
だけど私は一つだけ普通ではないことがある。
それは、前世の記憶があることだ。
思い出したのは高校1年生。春、東京にしては珍しく入学式に桜が満開だった。
「あの、定期落ちましたよ！」
「あ、ありがとうございます」
親切な人の顔を見た。身長が高く、特徴的な髪型。
一気にその時に記憶が蘇った。
そして、目から大量の涙を彼の前で流してしまったのだ。
「え！？何！？どうしたの！？」
今すぐ抱きつきたかった。
だけどここは正門をくぐってすぐのところ。
私がただ涙を流し、目の前の彼はオロオロしているだけ。
いやでも注目されている。
理性があってよかった。
しかし、記憶を一気に取り戻したせいで体調を崩し、結局入学式はでれなかった。
そして彼……木兎光太郎も、忘れられない入学式になってしまった。
彼は、私のことを覚えていない。
いや、覚えていなくていい。
そうだったら私は余計に苦しくなってしまうから。
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