ん。３【音駒】

ん！ ページ9

「お前、喋ったことないの？」


『……』



無理やりついてきたことで、Aは不機嫌だ。



「俺の友達に研磨ってやつがいるけど、そいつも人見知りで……お前ほどじゃないけど」


『ん』


「だから、口を開けって！」


『ん！』


「何言ってるかもわかんないって！」



住宅地で、大きな声で喧嘩する俺たち(正確には俺だけ)。

ずんずんと歩いていくA。

しかし、しばらく沈黙が続いた後に急に止まる。



『……伝えたくても、伝えられないんだもん』


「え」


『信頼している人じゃないと、無理。だけど、貴方はムカつくから信頼できない』


「は！？」


『それと、名前で呼んで。知りたいんだったら、それから』



こいつ、急に饒舌になりやがって……！

カチンと来た俺は、むきになる。



「いいよ！やってやろうじゃねえの！それと、貴方じゃなくて黒尾だ！」


『クロ』


「そう！それと、ちゃんと人を呼ぶときは名前で呼べ」


『……名前わかんない』


「知ろうとしないからだ。ちゃんと自分で聞け」



恐らく、目線的にずっと下を向いているから名前の札も見ていないし、ジャージを着るようになってから余計分からないだろう。

家の前についてAは小走りして玄関の扉を開ける。

そして、閉じる寸前に舌を出してきた。



「くそ生意気……！」

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