今年も。 ページ10
春高には人がたくさんいる。
あっちにも、こっちにも……知り合いにも会いたくない。まぁ、一人を除いて。
「あっ、さくさく〜！！」
その大きな声で全員が振り向く。前言撤回。やっぱ会いたくない。
学ランを着て、鉢巻き姿のAはやはり目立つ。
選手たちがいるユニフォームの中に混じっているのだからそりゃ一番目立つ。
つか、よく端っこにいる俺を見つけたな……。
「うるさい」
「あっごめん！ ねえ、応援席ってどう行ったらいいの？ 分かんなくて……」
「それなら、そこの階段上って……っていうか、今日はまだ試合ないんだけど」
IH優勝校だから、シード権をもっている井闥山の試合は第二試合から。
つまり明日からだ。なのにAはすでに衣装を着ている。
「あぁ、ありがとう！ 一応下見しようと思って！」
「その下見で迷っている奴が何言ってんだ」
「ほっ、本番では迷子にならないしっ！ 応援してるから！
古森にもよろしく！！ 頑張れー！！」
逃げるように去っていったA。嵐みたいだ……。
「佐久早ー今のA？ いいなー俺も会いたかった」
古森が人混みを避けてこっちにくる。
さっき、ユース合宿で一緒だった影山と話してたな。
「古森も頑張れだと」
「伝言さんきゅっ。また今年も迷ってたの？」
「そうっぽい」
「目立つよなぁ、良くも悪くも」
「……ほんと」
それだけは同感。
・
・
試合前に、「努力」と書いてある横断幕の後ろから大太鼓の響く音がする。
「井闥山ー！ ファイットー！！！」
そのあとに、Aの叫び声がコートを埋める。
チラ、と横目で見ると、先頭中央に鉢巻きをたなびかせたAが立っていた。
「佐原の応援はやっぱすげーなぁ」
「さすが……」
甲高くその声は遠くまで響かせる。
そしてそれは、俺の心も揺れ動かす。
何度も応援をされてきた横断幕の後ろからまた大太鼓の音が鳴り響いた。
「井闥山ー！ 佐久早ー！ 頑張れ！！！」
恥ずかしいから、名前は呼ぶなっつの。
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