絶対に食わない。 ページ9
春高まで残りわずかになった。
春高に近づけば近づくほど、Aとの会話は少なくなっていく。
前日、前々日まで動きのチェックや、応援の流れを生徒と確認しているようだ。
チア部の演出や、吹奏楽部だったりの演奏も含めてAが指揮をするから生徒たちから朝から晩まで引っ張りだこになっている。
「A〜大丈夫？」
「う〜ん……平気〜……」
クラスを通りがかった時、睡眠不足で机に伏せているAを見かけた。
春高前日の練習が終わり、ミーティングを終わらせて帰ろうとしていた。
「いよいよ明日から春高だな」
「……そうだな」
「Aの応援団長、見るの楽しみだな〜」
「あっさくさく〜！！ 古森〜！！」
びりびりとくる声で俺たちの名前を呼んできたのは、100m弱離れているA。
豆粒みたいに小さくて見えないが、走ってくるのを俺たちは静かに見守る。
こっちに着くときには息が切れて汗だくだった。
「相変わらずよく声が届くねぇ」
「はぁっ、はぁっ、げほっ！ ごめんっ、二人見かけて！！ 急いで走ってきちゃった！」
「分かったから声のボリューム落とせ。うるさい」
「あっごめん！ 応援の声のまま落とすの忘れちゃってて」
この三人で帰る。いつも小学生の時とか並んで帰っていたのに、今はいつの間にかなくなっている。
これも、あと何度あるのか分からない。
「明日だねぇ、いよいよ春高！」
「Aの応援、楽しみにしてるよ〜」
「ありがとう！ あっこれあげる！」
ポケットに手を突っ込んでごそごそと探り取り出したのははちみつ味ののど飴だった。
「ありがとう〜でも佐久早にこれあげても、こいつ声出さないから意味ないよ？」
「たしかに！でもさ、お守りだと思って持ってもいいし、お腹すいたら食べてもいいから！」
「食べないしいらない」
「そう言ってちゃっかり受け取っているくせに！」
Aに受け取ったのど飴。俺はそれをジャージのポケットの中に突っ込んだ。
これは絶対に食わない。
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