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yb side
「よう。」
「おう。悪い、休みの日に。」
今日は引っ越すから私物を取りにいきたいと、光からお願いされていた。
まだ怪我の痕は残るが、ガーゼも取れてもう痛々しくはない。
裕翔は気持ちを伝えると言っていたが、伝えたのかも、どうなったのかも知らない。裕翔も何も言わないし、俺も聞けなかった。
でも、“ひかるくん”から“ひか”に呼び方が変わり、“ひか”と呼ぶ裕翔の声はとても優しい。
今日俺もけじめをつけよう。もし付き合ってなかったら…気持ちを伝える、何度でも。光が怪我をしたと聞いた時に比べたら恐いことなんてない。
もし付き合っていたら、…諦める。
「二人で買った家具は置いていくから、やぶが良いならこのまま使えば。俺は新居に合うやつ買いたいし。コーヒーメーカーも置いてくから、気に入ってたろ?」
当たり前だけど、2年分の荷物は予想以上に多くて、取り敢えず生活するのに必要な物を先に持ってくわ、と衣類、日用品を手際よくまとめる。一段落した光に、少し休憩しよう、とコーヒーを淹れてテーブルに置いた。
二人で向かい合ってコーヒーを飲む。お揃いのマグカップは迷って、結局出さなかった。
「やぶ、どうせ料理しないだろ?包丁とかまな板とか基本的な物は置いてくけど、高かった鍋とか気に入って買ったツールとかは持ってっていい?」
「あぁ。好きなの持ってけよ。」
「食器はどうしよっか?」
「食器もそんなに使わないし、好きなの持ってけ。」
「そー?じゃあそーする。」
光がコーヒーの入ったカップを交互に見て、俺へと目線をあげた。
「あのさ、おれが買ったお揃いのカップなん…」
「あれは置いてけよ。」
怒ってる訳じゃないのに思ったより低い声が出て慌てる。一つだけ持っていくとか、捨てておいてとか言われたら立ち直れない。
「…やぶ?」
「あ、いや、あれは、ひかるがまた家に来たときに……、いや、ちがくて…、また二人で使いたいしっ…いや、そうじゃなくて…。いや、そうなんだけど…」
違う、まずは裕翔のこと聞いて…それから…。あーダメだ、真っ白だ。あっでも、これだけは伝えないと…。
「ひかるっ!
俺……やり直した…ぃ…。」
慌てた俺は光を真っ直ぐに見れなくて、少しずつ視線が落ちていく。同時に尻すぼみになる俺の声。
俺はほんと光のこととなると、情けなくて格好わるい…。
“ひか”
頭の中で裕翔の優しい声がする。
きっともう遅い…けど。
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作者名:黄色の梅 | 作成日時:2019年11月19日 11時