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玄関のドアを開け、靴に踵を引っ掛け雑に脱ぐと急いでリビングに向かう。
昨日急斜面を滑り落ちて意識が戻らないと聞いたときは、本当に心臓が止まるかと思った。
早く光くんの顔が見たい。
リビングに入ると柔らかい髪がソファーから覗いている。
「ひかる…く…」
ソファーの前に回ったオレは慌てて口を押さえた。光くんは背もたれに寄りかかって眠っている。
子供みたいに緩んだ寝顔が可愛らしい。光くんはどこでもよく寝るけど、外では見ることが出来ない安心しきった寝顔に二人で過ごした時間を想う。以前ならこんな顔絶対に見られなかった。
目にはいる額のガーゼや袖から覗く包帯が痛々しい。起こさないように、額のガーゼの上からそっと撫でる。
昨日大ちゃんから光くんの意識が戻ったと連絡を受けたとき…。
「ひかには内緒なんだけど、薮ちゃん病院に来たんだよね。…30分くらいしか居れなかったんだけど、目を覚まさないひかの頭をずっと撫でててさ。俺、ちょっと泣きそうになっちゃった…。」
光くんを想う気持ちは薮くんにも負けないと思っていたから、いや今も思っているけど…オレは心底悔しかった。オレが駆けつけて、側に居て頭を撫でてあげたかった。
なんだか二人の絆を見せられた気がして…。
分かってたけど、薮くんはまだ光くんが好きなんだ…。
光くんも…？
もしそうだったら、オレは？
いやいやと、嫌な予感に首を大きく横に振る。
立ち上がり窓を開けると、日が傾き始めて少しだけ冷たくなった風が緩やかに入ってくる。頭がスッキリして気持ちいい。
んっ…と声がして振り向くと、光くんが持たれ掛けていた頭をゆっくりと背もたれから起こしていた。目がまだ眠そうだ。
「おかえり、ゆうと…。」
舌足らずにもそもそと話す光くんは可愛い。
オレは窓を閉め、ソファーに近づくと光くんが座っている足元に膝を着いた。光くんと目線が合わさる。
光くんの頬に手を添えるとその温かさに愛しさが溢れる。…本当に無事で良かった。
「すごい心配した。」
「ん…。もう大丈夫。全部かすり傷だからすぐ治る。」
「うん、良かった…。」
…そっと光くんの唇に、自分の唇を合わせる。そのままゆっくりと離れた。
光くんの大きく開いた瞳がゆらゆらと揺れ、少しずつ水分量が増えていく。
「好きだよ、ひかるくん。ずっと好きだった。」
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作者名：黄色の梅 | 作成日時：2019年11月19日 11時
