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yb side
ピンポーン。来客が分かっている俺は確認もせずドアを開ける。
「よう。」
「おう。」
気まずそうに、でも目尻にシワを寄せて光が笑う。俺の好きな笑顔だ。
二人でダイニングテーブルに向かい合って座る。光から話がしたいと連絡をもらったのは今朝のことだ。
何て切り出そうかと、口を開いたり閉じたりしている光をじっと見る。言い出しにくいことなんだろう。
「や、やぶ。」
声が緊張しているのか震えている。
「…この前はごめん。俺ちょっと言い方悪かった。薮も家の事やろうとしてるのに。」
光の言葉に力が抜ける。最悪別れ話まで覚悟していた俺の顔は今、筋肉と言う筋肉が安堵で弛んでいるだろう。
「いや、あれは俺が悪かった。酷いこと言った。ほんとごめん。」
光もホッと息を吐いた。これで解決だと思った。なんだったら余った時間を二人で何して過ごそうかと考えたくらいだ。
「で、でさ…。俺あれから考えてたんだ。」
光が話を続けた。
「俺……、部屋を探そうと思う。」
はっ!?それって、それって…。考えが纏まらないうちに光は更に続ける。
「あっ、その前にさ、やぶに謝らなきゃいけないことがあって。…実はやぶとケンカした日、おれ熱出ちゃって、で裕翔と、えっと偶然?会って、だから裕翔の部屋で看病してもらってたんだ。だから、やぶとの約束やぶっちゃって…。」
やぶ、ごめんな?なんて俺の目をまっすぐに覗いてくる光は、俺の好きな無邪気な光だ…。だけど、好きなのに好きだから……。
なおも光は話続ける。
「で、さっきの続きだけど。おれさ、この前のケンカで気付いたんだ。俺が中途半端だからやぶを苦しめてるって。だから…」
「別れたいって? で、裕翔と付き合うって?」
「んっ?」
俺の声が小さすぎて聞こえなかったのか、光がもう一回とでもいうように俺の目を覗き込む。
もういい、聞きたくない…。
「ひかる、もういい…。分かったから。」
「えっ?分かったの?ほんとに?」
光が更に話し出そうとするのを遮る。
「別れよ…。」
俺からこの言葉を口にするとは思わなかった。光に言われても、絶対受け入れないし、説得してやろうと思っていたのに。
「………えっ?」
「ごめん、俺…辛い。限界…。」
声が震える。
なん…で?と言う光の声も震えている。
ごめんな、待つって言ったのに。ごめんな、信じてやれなくて…。
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作者名:黄色の梅 | 作成日時:2019年11月19日 11時