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俺は光の手を引いて、唖然としている大ちゃんの横を通り楽屋を出た。
空き部屋を見つけて、そこに入る。


光はずっと下を向いている。


裕翔とのことを問いただしたいが、感情的になって光を追い詰めるのが恐い。グッと拳を握る。


「ひかる、戻ってこいよ。」


「……」


無言は否定なのだろう。


「裕翔が……好きになった?」


ゆっくり首を横に振る。


その瞬間、大きな安堵感に包まれ、ゆっくり息を吐く。


「戻ってこいよ。裕翔のところにはもう居て欲しくない。」


「……」


「俺のこともう好きじゃない?」


光は少し間を置いて、小さく首を横に振る。


即答ではないことに不安がまた顔を出す。


「ほんとに新しく住むとこ探してんの?」


首を横に振る光にゆっくり近づいて頬に触れる。光がビクッと肩を揺らした。


肩の上から背中に手を回しぎゅっと抱きしめる。すっぽり俺の腕に収まる光が愛しい。


このまま力ずくで連れて帰りたい気持ちを抑える。おそらく、納得しなければ帰ってこられないのだろう。焦れったいが、光らしいなとも思う。


俺は両手で光の頬を包む。顔を傾け、ゆっくりと唇を合わせる。大切に大切に。手を後頭部に回し、少しずつ少しずつ、光の口の中に侵入していく。


「はっ…」


静かな部屋に俺たちの唾液が絡まる音だけが響いた。


ゆっくり光が俺の胸を押す。


「「……」」


「…やぶ、俺、ちょっと時間が欲しい。これからのことちゃんと考える。」


光が口を開いた。


正直、不安が募る。
でも元をただせば、光と向き合ってこなかった自分の身から出た錆だ。


俺は両手で光の肩を掴み、光の目を覗きこむ。


「分かった。でも、裕翔の家だけは出て。頼む…。」


光の目の奥が蜃気楼みたいに揺れる。


「分かった…。」


待つしかできない自分がもどかしい。


「ひかる、俺、好きだから。待ってるから。」


ありきたりな言葉しか出ない自分にも腹が立つ。


目頭が熱くなる。泣くなんてカッコ悪すぎる。見られたくなくて、先戻るわ、と部屋を出た。

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作者名:黄色の梅 | 作成日時:2019年11月19日 11時

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