白猫の飼い主はまっくろろ ページ9
美しい。
いや、お世辞にも綺麗だとは言えない。色んな汚れと匂いが入り交じって恐らく普通の人間なら近寄りたくないと感じるだろう。髪もごわごわで絡まっていてたくさん葉っぱを引っつけているし手も足も土まみれ。
けれど美しいと感じた。
ほんのわずかに眉をしかめ不満そうな顔をする。瞳は赤く染っているのに本人は何に感情を昂らせているのかまるで分かっちゃいない。
きっと綺麗にして清潔な服を着せれば容姿だって抜群にいいはずなのだ。けれど現状は汚く、行動は野良猫そのもの。
そのチグハグさに惹かれた。
世話をして可愛がれば懐くだろうか。懐けばもっとほかの顔をするんだろうか。
気になった。
｢名前は｣
｢あーは｣
｢なまえ｣
聞きにくかったかと分かりやすく伝えれば｢なまえ｣と呟いた。
｢ないんだったら勝手につけるよ｣
｢A……｣
小さな小さなこえで拙い発音で言葉がつながれた。
初めて彼女が言葉を交わせた瞬間だった。
｢そう。じゃあこれからよろしく。A｣
｢名前は？｣
｢なまえは｣
飴玉をころころ転がしながらクロロの言葉を繰り返すA。どうやら飴は好みらしく、よく｢あ｣と口を開けてクロロにねだっている。
｢やっぱだめか｣
名前は？と聞いて答えたのはあの時だけだった。
現在聞いてももう答えることはなく繰り返すだけ。
｢だめか｣
｢好きな食べ物は｣
｢あめよ｣
もうどうせ繰り返すだけだろうと思って何気なく聞いた質問にまさかの答えが返ってきて、これにはクロロも僅かに目見開いて驚き笑みを浮かべた。
Aも少しずつ変わってきている。
1文字程度しか話せなかったのがこうして簡単な言葉を話すことができるようになり、クロロのことを覚えた。
いつの日か普通に会話することはできるようになるだろうか。記憶を取り戻す日はくるのか。クロロの正体を理解した日はどんな反応をするのか。
全てはその時になってみないと分からない。何日後かもしれないし何年後かもしれないし、あるいはそんな日は来ないかもしれない。
クロロに猫のように顎を撫でられて目を細めるA
はくるる、と喉を鳴らす
未だ猫生活は完全には抜けきっていないようだった
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作者名：むよくちゃん | 作成日時：2023年11月22日 19時
