【第五人格】婚約者は後を追って

35話 ページ35

｢じゃあ、Aは出血死待ちされてるってこと？｣


誰かが言った。

出血死、とは言っても実際に死ぬまでゲームが終わらない訳では無い。
出血多量で気を失ったら、その時点で脱落扱いとなりゲームは終了する。

しかし、今までそんな状態になった人はいなかった。
なぜなら、サバイバーとハンター両者には｢投降｣という手段があるからだ。負けを認めればゲームは終了し、荘園へ帰される。


だけど、Aは帰ってこない。


｢誰か、あの子に投降できることを教えた人は？
一緒に試合して、投降したことは？｣


顔を青くしたマーサが皆に問うも、誰も答えなかった。
代わりにエマの泣き声が再び部屋に響く。


｢どうしようっ、このまま、もしAが……！！｣


意識がなくなるまで血を失って、それから荘園へ帰ってくる。その間に生きていられるかなんて誰も分からなかった。



このまま、もし？


帰らなかったら。
帰った時には息が止まっていたら。


最悪の事態が頭を過ぎった時、葬式状態だった荘園内に扉の開く音と何かが倒れるような音が聞こえた。


向こうにあるのは、脱出者が帰ってくる扉。
どういう仕組みでフィールドから繋がっているのか分からない。中からは決して開かない。


｢……A？帰って、きたの？｣


エマの声を合図に、動かなかった身体の糸が切れたように部屋を飛び出した。






たどり着いた先、扉の下にぐったりと横たわる彼女がいた。
死人のような青白い顔は、辛うじて体温を残している。


ごめんね、ごめんね。

いっそ僕なんかと出会わなければ、こんな苦しい思いしなくてすんだのに。


ポツリポツリと謝りながら、身体を起こしてギュッと抱きしめた。その今にも消えてしまいそうな華奢な身体を。

首は力なく重力に従う。




｢クラーク君！今診るわ、必ず助けるから｣


どうか力よ、発動しないでくれ。


｢イライ大丈夫だ、きっとすぐに目を覚ます｣


見たくない。もう未来なんて。


彼女の死が、皆の死が見えてしまったら。


普通に生きてなんていられない。


怖い。怖い。未来が怖い。



ずっと来なくていい────









抑えられた目が痛い。


どこかで男の叫び声が聞こえる。


………ああこれ、僕の声か。

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