伊瀬谷！！！！俺だ！！！！ (ページ41)

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〃② ページ41

「いや、一応普通に聞けるよ？A3とか最推しの声担当してるの健人だし。ただシチュボってなるとキツくて…。
　前健人がやってるシチュボをラジオで聴いから爆笑しすぎて使い物にならなくなったことあった。」

　少し言いづらそうにしつつもストレートに言葉を投げつける従妹に、濱は激怒した。

「はぁー？？？？じゃあお前いまこの瞬間から俺の声でときめくなよ？？ドキドキすんなよ？？？なぁ？？？」

　濱は伊瀬谷を心底可愛がっている。
　その愛情は多少歪んではいるもののしっかりと恋愛的なものも込めた感情を持って接し、伊瀬谷もそれを嬉しく思っている。
　だがその言葉だけは聞き捨てならなかったのだ。

─俺の声に反応するようにしときゃよかったな。

　相変わらず従妹に対しては普段の土佐の男らしい性格をどこかに落としているこの男は、そんな危険思想を頭の隅に置きながら反論した。

「ごめんて。」

　伊瀬谷は従兄が自分に対して歪んだ感情を持っていることは身をもって知っているが、どこでその琴線に触れるかが分かってないため呑気に返答していた。これが配信でなければ暗転一直線だったことだろう。

「そうだ、ダミヘ持ってこようか？今この場で実際にやってみたらいいんじゃない？」

　業界で生きていく上で身につけた勘で隣の男の機嫌が余りよくないことを察知した伊瀬谷は、そんなことを提案した。
　それを聞いて濱が少し考える。

「半年くらい前に買ったって言ってたやつ？」

「そう、140万した。」

　そのダミーヘッドマイクが届いた際偶然家を訪れていた濱は、伊瀬谷が少し無邪気に喜んでいた様子を覚えている。
　時期を大まかにでも覚えていたのは、単に「あれくらいにAがすごい喜んでたけどそんくらいっていったらダミヘが届いたくらいだよな」という認識をしていたためだ。

　値段を聞き、「馬鹿だろ」と笑って返すと、伊瀬谷が「違うんだって」といって反論をした。

「私が買った少し前に30万くらい寝上がっただけで元は大体100万だったんだって。」

「どっちみち100万じゃねぇかよ。」

　濵のツッコミに、伊瀬谷は楽しそうにケラケラと笑う。
　そうやって少しの間笑うと、満足したのか、立ち上がって「それじゃ機材持ってくるから健人場繋いでて」と言ってその場を去っていく。

　突如他人のチャンネルでの生配信で取り残された濵は、「伊瀬谷Aは自由」という言葉の意味を20数年共に過ごしてようやく理解した。