伊瀬谷！！！！俺だ！！！！ (ページ14)

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あの頃の僕らはページ14

「嫌だったら答えなくていいけど、伊瀬谷ちゃんの同居人って恋人？」
くるくるとストローでグラスをかき混ぜる動作を止めず、同様する様子もなく、淡々と「そう思いましたか？違いますよ」と笑って答える。

正直、付き合ってないだろうなとは思った。

「…付き合ってないの？」
「ないです」

普段よりも優しく、子供に聞くようにして言葉を紡ぐ。だって、それはそうだ。
この子は子供なんだから。

「私と同居人は…さっき言ったみたいに昔からの知り合いなんです。ただそれだけ。」

とても遊ぶタイプには思えなかった。
これは俺の偏見だ。だが実際にこいつはそうだった。仲が良いのと恋愛感情をもっているのは別で、全員同じものとして考えている。

「まじでこれはセクハラとかじゃないんだかど、さっき…手首とか首にさ…」

高校生相手にどこまで言っていいものか悩んでいると、手首を見るなり、あぁ、と言って捲った袖をもとに戻す。
「確かにこれは同居人がつけましたよ。」
「…なんで」
「なんでって…」

ヤってたから、ですかね。

あっけらかんと答える姿に、軽く目眩がした。
そしてその時、おれは伊瀬谷Aという人間を神聖視しすぎていたと思い知らされた。

「…別に、本当に付き合ってないし、それにこれは向こうの習性みたいなもんです。」
「習性？」
「自分のスペースを他人に触られたくないとか、その程度の奴です。別に…私が好きでやってるわけじゃない。」

さっきまで平然としていた目の前の少女は、瞳をゆらつかせて、どこか悲しげに笑った。
きっと本当は、そいつはこの子が好きなんだろうな。とか
この子もそいつのこと好きなんだろうな。とか
色々と気づいたが、全部押し込めて、じっと顔を見た。

「あー…その…連絡先教えとく。相談乗るから」
暫く考えてようやく出した俺の言葉にAはそっと笑って、ありがとうございますと笑顔で返した。
相変わらず張り付けたような笑みだったが、ほんの一瞬だけ、どこか懐かしい雰囲気を感じた。

それから約4ヶ月後、衰弱しきった声色で電話をかけてきたAに驚いた俺は、次の日仕事がないのをいいことに、昼過ぎに新幹線に飛び乗って大阪へ向かい、そのままAと合流してカラオケへ連れ込んでオールした。
更に1ヶ月経ってから現場で会った時、元気に「あ！吉野さん！」と言って無邪気に笑っていて、安堵したのを覚えている。

そんなこいつが、どうしようもないほど愛おしい。