伊瀬谷！！！！俺だ！！！！ (ページ13)

今日:7 hit、昨日:20 hit、合計:15,023 hit

あの時君はページ13

OPも歌うと聞いた時は、「なんだよこいつ、さすがに盛り過ぎじゃね？」と思ったが、小さい頃から歌が好きだったとか、好きなアニメの絵を描いてたとか、周りの大人が根掘り葉掘り聞き出していっているのを聴きながら、そうやって好きなものを全部の頑張れる人間だから才能があるのかと、妙に納得した。

その後、あの時あの場にいた奴らが思った通り、伊瀬谷Aという人間はみるみる成功していった。
そして高校生になった時、大阪に引っ越したとスタッフに聞かされた。知り合いの家に住まわせて貰うことになったという話しをききて、若いし綺麗なんだからその方が安全だなと思ったのを、今でも覚えている。

俺とAは、その後3年間交流がなかった。作品が被らなければ会うこともないのがこの業界。ましてや事務所も違えばすれ違うことすらない。
そんなある日、あいつが高校三年生になった年、ばったりと再会した。大きくなったなとかけた声は、きっと少し不自然だったとおもう。黒かった髪は明るい茶色になって、少し残っていた幼さは影を潜めて、知り合いのお洒落な男性声優が着ていたようなスタイリッシュな服装をして、伊瀬谷ちゃんというより、伊瀬谷さんだった。
お久し振りです。と笑う姿に、「あぁ、そうか。もう5年か。」と漠然と思った。
5年で、そいつは随分と愛想笑いと作り笑いが上手くなっていた。
あの頃の自然な笑顔は見る影もなく、お面のような心地のいい笑顔を張り付けて、機械みたいに心地のいい声色を奏でていた。
「…学校どう？」
久々に会った親戚みたいな事を聞く俺に、笑って「久々に会った親戚のおじさんじゃないんですから」と言う姿に、なぜか昔付き合っていた彼女を思い出す。

「この後は？仕事？」
「いや、もう終わりました」
「じゃあどっか食べに行かね？奢る。今度あの作品5周年イベントやるってので原稿貰ったからせっかくだし作者の意見聞いときたい。」
少し悩んで、携帯をチラリとみてから「構いませんよ」と、笑って承諾した。

今時の子の好きなものが分からず、普段声優仲間と行く個室のある店へ向かった。
道中話して分かったのは、恐らく同居人がヤバイやつということだ。

「伊瀬谷ちゃんさ、高校卒業したらどうすんの？こっち住む？」
俺の問に、「そのつもりです」と水のはいったグラスを両手で持って答える。
その隙に腕を覗きみれば、俺の予想は、やはりあっているようだった。