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あの頃は ページ12

「あれ、酒呑んだ後にポ○リってよくないんじゃなかったっけ?」
「水分の吸収を早めはするけど、アルコールの吸収には関係ないよ。そもそもアルコールを抜くのに必要な成分である水分と糖がとれるのは楽だし、心配なら水呑めばいいし。」
「お前がいうならそうなんだろうな」
「何なんだよ、その信頼」


突然家に押し掛け、風呂まで借りた俺にたいして、目の前の人間は至って平常な様子で接してくる。
何故こんなことになったかといえば、収録後飲み屋で泥酔し、1時間寝こけて起きたら終電がなく、ホテルに泊まろうにも現金がなかったためどうしたものかと悩んでいた所たまたま連絡先一覧にあった伊瀬谷Aの文字を見て押し掛けた次第である。
良さげな飲み屋だと立地条件からして近場の人間というのが限られるが、その点こいつは現場近くの高層マンションにすんでいるので気軽に来れる。本人はさぞ迷惑なことだろう。
多分1泊いくらで同業者に部屋を貸せば1ヶ月でそこそこ儲かるんじゃないか、こいつ。

「あ、そういえばなんだけどさ。」
「ん?」

隣で何やら紅茶らしきものを飲んでいたAが、ふと思い出したかのように顔を此方に向けた。
やけに整った顔も、初めは多少思うことがあったが、今となっては馴れた顔だ。

「私とお前が仲良くなったきっかけってなんだっけ?」

突然の問いかけに飲料水が変なところに入りかけたが、なんとかそれを阻止して蓋を締める。

「仲良くなった切っ掛けっていわれてもな…普通に現場がいっしょだったからとか…あとは…打ち上げとか。」
「私未成年だったから打ち上げ参加できなかったし多分違う。」
「あぁ、そうか…そういやそうだ。」

思い返して見ても、こいつは昔から年相応という言葉が似合わないやつだった。
初めて合ったのは確かこいつがまだ中学生の時で、多少の幼さはあったものの、その時いた高校生の新人声優と差はなく、身長も俺より少し低いくらいだった。
「はじめまして。この作品の原作小説の執筆、そして主人公を務めます伊瀬谷と申します。演技はまだ素人ですが、皆様の足を引っ張らぬ用尽力致します故、何卒ご協力よろしくお願い申し上げます。」
中学生とは思えぬ言葉遣いと立ち振舞いに、その場にいた誰もが目を見開いて、そして思わず拍手をしていた。
透き通る声、伸びた背筋、整った風貌。
きっとこれから先、役者としても作家としても大成するだろうと、その場にいた誰もが思わされた。そんな人間だった。

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作者名:志賀 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php?svd=sab  
作成日時:2023年3月27日 18時

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