伊瀬谷！！！！俺だ！！！！ (ページ11)

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面倒事ページ11

「風呂かして」
「…」

全身ずぶ濡れな髭面の男をじっと見て、一つため息をついたあと招き入れた。
タオルを何枚か持ってきて、一枚頭に被せて一枚押し付けた。
そこそこな値段のジャケットもこれでは痛んでしまうのではないかと心配になる。

「服脱いだら洗濯機回して出た後乾燥機にぶちこんどいて。」

余ったタオルを床に敷いて、脱衣場まで向かわせた。
返事をすると同時に服を脱ぎ始めたので、とりあえず扉を閉める。男の半裸見て何が楽しいんだ。
この家は立地の問題かこういったことが多い。この間は酔っぱらい三人衆が押し掛けてきたし、二週間ほど前は終電を逃した馬鹿が泊まりにきた。

確かにこのマンションは広く、セキュリティも安全で同業者も安心できる。だが一つだけ言いたいことがある。
何故野郎がくるのか。
女の子なら何も問題ない、男だから問題なのだ。
過ちが起こるとかそういうのではなく、ただ単純に男が自分の家に群がるのが解せない。

若干冷えたコーヒーを啜って、息を吐く。
歯を磨きたいのに磨けないとか、また光熱費がバカにならないとか、洗濯物が増えるとか、色々不満はあるが、ひとまず今はそんなことどうだっていい。

マグカップをシンクに置くと新しいマグカップを取ってきてお湯を沸かす。
あー、明日仕事ないんだっけ。どうしようかなー。と一旦現実逃避じみたことを考えて、そのすぐあとに目の前のマグカップをみたや意識が現実に連れ戻された。
こんなことはよくある。だが先程まで考えていた内容が内容なので、自分の家だというのに妙に居心地が悪かった。

「お前今日外出た？マジでやばい」
肩にタオルを掛けてリビングにやってきた男をみて、思わず表情が無になる。なんだこいつ。

「…出たよ、収録あったし。」
「濡れた？」
「私は車っていう便利なものがあるからね」
「あぁ、あのでけぇ車。別に軽でよかったろ、維持費もかかるし。」
「仕方ないじゃん。都会は車持ってない人多いんだから、飲み会とかで送迎係したり移動の時ほかの人乗せたりするんだから。」

どっかりとソファーに座っていたそいつは、私の言葉をきくなりこちらを向いて、ふっと笑った。

「その発想になるのがAらしいよな」

その言葉の意味が理解できてしまうのがなんだか腹立たしくて、黙ってケトルを回した。
フツフツと音を立てるのを見終えると、カップにかけていたティーパックを外してシンクに捨てた後、冷蔵庫を開け、清涼飲料水を取ってテーブルに向かった。