【終わりのセラフ】願いの雫 -2-

過去６話 ページ38

真昼が自分に協力をお願いしてきたのは、夜な夜な抜け出して戻ってこない事が柊にバレたからだという。
だからAの協力を得てからは、昼間の、グレンの訓練の休憩に合わせて会いに行っていた。真昼がどうしてそんなにもグレンに会いたいのか理由は聞かなかったが、Aは理解しているつもりだった。なんせ二人とも、目が似ているのだ。
希望を持っている。
いや、希望を捨てられない、そんな目が。
しかし真昼の瞳には、その奥底に絶望が見える気もする。物心ついた時から大人の表情を見ることに長けていたAは、深夜に窓際で一人でそんな事を考えていた。
これが、続くとは思えない。いつかバレてしまった時、自分はどうやって二人を守ろうか。否、どちらを守ろうか。

ふと、Aの右耳が反応する。
通常では有り得ないほど、離れた場所の音をAは察知していた。

貴｢...泣き声？どこから...。｣

誰かの、おそらく同い年であろう子供の泣き声が聞こえてきた方を見ると、最近できたばかりのコンクリートの建物が見えた。その建物は、自分が前いた建物にとても良く似ていた。だが重要なのは、その建物は最近できたばかりだということと、ここは柊の所有地だということ。つまり、人が、しかも子供が、突然あのビルに居ることは有り得ない。もしあるなら自分と同じ境遇の者だけだ。つまり。

貴｢あそこに居るのは真昼の婚約者候補...。｣

憐れむような目をその建物に向ける。
自分が行ってきた、あの、意味の無い、意味の無い残虐行為が、あの建物で始まろうとしている。何十人も殺さなければならない。たった一人になるために。
Aはｸﾞｯと拳を握り締めた。だが柊という名には個人の強さだけでは適わない。だから動かない。
自分は親を捨てた。ここで一人になっても、失うものなど何も無かったAには悲しいという感情は無かった。
だが、今も聞こえるあの泣き声の正体の子はどうなのだろう？微かに聞こえてくる泣き声から、親に会いたいと言っているのが分かる。

貴｢.....。｣

自分には理解し難い感情を、こんな夜中に、誰も助けてくれないのに、余計悲しくなるだけなのに、わざわざ口に出している、その声の主が何故が物凄く気になった。

貴｢他人が気になる、なんて...。真昼と出逢ってからかな？まずいな、抑えてた欲望が滲み出てくるようだ。｣

Aは人間性を自然に捨てていた。それは本能で、欲望に溺れるのを防ぐ為。生まれながらに宿した鬼を制御する為。

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