【聖F学】エリンジュームの花束を。【派生作品】 (ページ20)

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なんでこんな苦しい思いまでして人は人を愛すのだろうか。愛されたいと思うのだろうか。
オレにしては欲張りだし、愚かだ。
自分の本当の事を言えない癖に、突き放す癖に愛されたいと願う自分がいる。恋は病と言うが、こんな病気があるならさっさと薬を作って頂きたいものだ。

そう思いながら、ナハトは目を綴じた。
すると目に溜まっていた涙が押し出されてまた頬を伝って落ちていく。
全て、ショコラの為。ショコラを傷付けないで済むように。ナハトとの出会いは100分の1かそれ以下の小さな出会いであり、ナハトに傷付けられた傷もこれから生きていく上で小さい。
いつか自分の事も忘れるのだろう。ナハトも忘れたい。こんな気持ちも、恋も記憶も。

今まで愛された事もないし、愛した事もないからどうすればいいのか分からない。父も母も、穢らわしいとナハトを突き放した。地下牢に閉じ込められた事もあった。
先生も、クラスメイトも、ナハトを下に見て面白がった。

優しく接してくれる人はいるし、今もいる。
でも、心の中ではショコラだけが残っている。

「………好きって……そういう事か……」

理解するつもりがなかった感情が、自分の中にひとつ増える。
その人を想うのが恋だ。なら、ショコラを陰で想っていよう。ショコラの、為に。
秘密の恋にして、ずっとそのまま。時が止まったように、そのままで。

不意に足音が聞こえて、そちらに顔を向けると、『大っ嫌いな』綺麗な青い瞳がナハトを見つめていた。

「見つけた」

「……なんで来んだよ」

意味が分からない。
なんで何回突き放しても、君は離れてくれないんだよ。突き放しても、追い掛けて来てまた突き放される。
頭が悪い訳では無いのだから解るだろう。

涙を見せる羞恥心とショコラがやってきたことによる焦燥で頭の中がごちゃごちゃとかき混ざっていく。
心の何処かで。

――――――――――――――来てくれた。

そう、確かに自分の声が聞こえた。
ショコラを嫌いになりたい。本当は好きになりたい。自分を嫌ってほしい。愛してほしい。
苦しい、痛い。忘れたい。痛みも全部含めて好きになりたい。

本当は………、

「気付いてくれた？……キスの意味」

「うん」

「………待ちくたびれたよ、ショコラ。」

本当の自分で君に会いたかった。
本当の気持ちで笑って、本当の気持ちで話したかった。

「相変わらずお人好しで大っ嫌いだよ」

ひねくれた自分にしては、ショコラを真っ直ぐに見つめた。