ページ ページ9
*
ロキはトールの言葉を聞いて、「やっぱり知らないのか」という顔をした。ただ、嫌そうな顔はせず説明した。
「その名も【ディスガーズ・ソーウィン】。仮装してスヴァルツヘイムに隠されたお菓子を探して、一番お菓子を見付けられた奴らが100万円…ってゲームがあるんだよ。子供から大人まで皆参加するんだ。今年から始まったらしいな。楽しそうだろ？」
トールはああ、と相槌をうった。
そういえば、最近は例年にもまして街がハロウィン一色だった気がする。道にはジャック・オー・ランタンが立ち並び、店の壁や窓には、やたらにポスターが貼ってあった。そういう事だったのか。
トールが納得していると、扉の外からノックの音が聞こえた。入ってきたのは、同じく海賊の衣装を着た近衛兵団の面々だ。その中の一人のヘルが、着慣れない衣装に落ち着かなそうにしながらも、礼儀正しくロキに頭を下げた。
暫くして、頭を上げたヘルと目が合う。すると、ヘルは目をキラキラと輝かせた。
「トールさん！ お似合いです、本物の海賊みたいだ…！ 格好いい…」
「ありがとうございます。ヘルくんも似合ってますよ」
ヘルの衣装は、恐らく自分で選んだのだろう。海賊船の船長と言うよりは、船員の一人、という感じだった。派手な格好が得意でないのは、普段の様子からも分かる。
「でも、皆海賊なんですね」
トールは、部屋にやってきた近衛兵やロキを見てそう言った。ロキは諦めて乗り気になってきたらしいトールに向かって、笑って話す。
「ディスガーズ・ソーウィンはチームプレーなんだ。言ったろ？ “俺達は”海賊に仮装する、一番お菓子を見付けられた“奴ら”が優勝だって。同じ仮装をしてる奴でチームを組むんだよ」
ロキは、座っていた椅子から立ち、意気揚々と腰に差していた剣を抜く。こうして、人や自分を奮い立たたせる雄弁を振るうのが好きなのだ。
「俺達が仮装したのは海賊。今より、俺達は海賊だ。支配するのは海だけじゃない。俺が参加するからには、獲るなら優勝に決まってるよな？」
今度は、「返事は“はい”か“YES”か“喜んで”か」…なんて質問はしなかった。近衛兵団の面々は、凛々しい声で「はい」と返す。ロキは、相変わらず威勢のいい返事にうっとりと笑うと、ポケットから棒付きキャンディを一つ出し、口に咥える。ぶどうの味が舌に広がった。
「さて、上陸と行こうか」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 11人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
