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どうやら、ハロウィンの仮装らしい。ロキはコートの襟を正しながら笑う。
「俺達は海賊に仮装する事に決めたぞ、トール」
トールはロキの発言に眉間に皺を寄せる。俺“達”？ 嫌な予感しかしない複数形に、トールの足先は外側を向く。一方で、爛々と目を輝かせながら、ロキは話した。
「知らないのか？ 今日はハロウィンの祭りがあるんだよ。スヴァルツヘイム中を巻き込んだな。俺も参加する事にしたんだ、立派な公務だろう？」
「…とてもお似合いです陛下、では私はこれで」
そう言ってトールはその場を離れようとしたが、そう簡単に逃がしてくれそうではない。ロキは、既にトールの腕を掴んでいた。「何処に行くつもりだ？ まだ用は済んでないぞ」妖しく弧を描く口元と瞳は、トールの考えを見透かすようだった。逃げようとしている事が分かっているらしい。
一瞥の望みをかけて質問してみる。
「何故私を呼び出したのかお聞きしてもよろしいでしょうか？」
「何故って、お前も仮装するからだよ」
望みは、一瞬で砕け散った。あまりに呆気ない。予想してはいたが。
ロキは、掴んでいるトールの腕をそのまま引いて、部屋を出る。
「俺が直々に選んでやるよ」
衣装の事を言っているらしい。…固く握り締められた腕からは、抜け出せそうにない。トールは諦めて、腕の引かれる方へ体を委ねた。
ロキが別の部屋の扉を開け放つ。中には、無数の衣装が並んでいた。ロキはすぐにその中へ飛び込んでいくと、衣装を手に持ち、トールの体に当てて見せた。
「あの、陛下、私には似合わないかと…」
「いいんだよ。…帽子…帽子は、羽がついてるのがいいな。銃より剣の方が似合う。あと…靴、靴はブーツにしよう！」
「わ、ぁ……は、い」
着々と進んでいく衣装選びに、トールは流されていく。受け取ったという表現が正しいかは置いておいて、トールが衣装を手に持ったのを見て、ロキは満足そうに笑った。ロキが楽しそうでなにより──なんて思ってみるが、トール自身も満更では無いのである。
「…これで、良いでしょうか」
衣装を身に纏って、ロキの前に出る。黒い海賊帽に、赤いコート。ロキとは別に、貴族らしい装いである。少し気恥しい。
ロキは、腕を組んで頷く。「俺が選んだだけあって似合ってるな」
トールは、腕を組んで座っているロキに「そういえば」と取ってつけたように聞いた。
「ハロウィンの祭り、って何なんでしょう？」
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