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父のような皇帝でも、全く関係の無い逆恨みの刃で死ぬ。
父を刺し殺した老人は、泣きながら「祖父の仇だ」と叫んだという。それを聞いた時は、俺がその老害をズタズタに引き裂いて殺してやると思ったものだが、父はいつも言っていた。「皇帝と国民は一心同体」であると。国民の喜びは、皇帝の喜び。国民の悲しみは、皇帝の悲しみ。──国民の罪は、皇帝の罪なのだ。
きっと父は、そこで果てる事すら、受け入れたのだろう。だからロキも、受け入れる事にしたのだ。皇帝殺しの老人の罪でさえ、自分の罪となるのだから。
けれど、自分も父のように、全く関係の無い逆恨みで死ぬかもしれない。命を狙われているかもしれないと思うと怖かった。いや、それ以上に、国民の全てを受け入れる事が怖かった。この両腕に抱えきれない程の罪を、引き摺ってでも生きていかなければならない。なぜなら、「皇帝だから」である。
「怖い」
極度の緊張の中で、乾いた喉から絞り出すように発せられた声は、酷く震え、掠れていた。小さな小さな、心の叫びは、扉の向こうへ吸い込まれた。震える手を握り締める。震える足に力を入れる。
自らの、変革の時だ。今こそ、“皇帝”になるのだ。
扉が開かれた。
広い空間の奥には、大きな椅子がある。その側には、オーディンやトール、テュールやフレイの石像が置かれていた。ロキは、どこの誰かも知らない大人達の目線に刺されながら道を歩いた。
椅子に座って暫く経つと、大司教が数人を連れて現れた。その手には、王冠、王笏、宝珠、ローブが持たれている。
ロキは席を立った。すると、肩に長い長いローブがかけられる。身長よりはるかに長い、カーペットのように続くローブだ。椅子に戻って座ると、手に王笏と宝珠を持たされる。そして、最後に王冠が頭に乗せられた。
ロキにとっては、この王冠が、重くて重くて堪らなかった。首が折れそうな程重たく、力を抜いたらぺしゃんこになりそうな程。実際に数kgある王冠であったが、それよりもずっと重たい圧力がかかっていた。
あまりの重さに泣き出しそうになっていると、周囲の人々が大きな声で叫んだ。
「皇帝陛下万歳!」
──万歳? ふざけるな!! 何を祝って万歳なんて!
ロキは固く結んだ唇の先で歯を食い縛ったが、すぐに力は抜けてしまった。
瞳に冷たい炎を湛えて、ロキは目を開く。
皇帝に、ならなくてはならないから。
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