【盤上のラグナロク】BL△CK Out【派生作品】 (ページ3)

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　黄金と青で装飾された豪華絢爛な馬車に乗り込む。中は狭くはないが、中途半端な広さと外から自分を覗き込むことができる造形では、落ち着く事はできなかった。ロキは深呼吸に見せかけた溜め息を吐いた。
　遠く──パレードの先頭の楽団が、盛大な音楽を奏でながら歩き出していくのが分かった。程なくして、ロキの乗った馬車も前へ進み出す。道は平坦だったが、馬が力強く引く馬車の乗り心地は、悪かった。
　ロキが乗った馬車が見えると、ビリビリと耳に響く程の大音量で、歓声が上がった。

　ロキには、何の歓声なのか分からなかった。し、それが歓声ではなく、大きな罵声なのではないかとも不安になった。自分を見る者全てが、自分を嘲笑っているように見えた。不安で疑心暗鬼になっているせいに違いなかったが、ロキにはそう感じられた。
　──すると、本当に罵倒の声に聞こえてきた。「お前なんかが父の代わりになれる訳が無い」「子供が調子に乗るな」「皇帝の器じゃない」それはロキにとっては、心が押し潰れる程重い言葉だった。幻聴ではない。
　ただ、実際そんな事を言っている人は、誰一人いなかった。ロキを除いて。
　歓声という名の期待から逃げたかった。だから、無意識に自ら自分を罵ったのかもしれない。そんな事をしたところで、今更引き返す事は無いのに。
　馬車は、後ろに進まない。

　神殿に着いて馬車を降りる時、トールや見知った顔の、歳の近しい近衛や少年らを見た。式に使う長いローブを持つのは、彼らである。
　神殿の厳かな装いの扉の前に立つ。この先には、沢山の来賓の大人達が待っている。小さな皇帝の入場を。
　手が、足が、震えていた。今にも崩れ落ちてしまいそうな程。父の死が、過ぎったからだ。

　父は祖父が死んでから、しっかりと順序を踏み、皇帝となった。
　皇帝としての父は完璧だった。国民には慈悲深く優しく、自分には厳しく、強い軍を組み立て、進んで公務をこなして見せた。誰もが認めた皇帝だった。国中の、誇りだった。
　だからこそ、父が死んだ時を今でもさっき起きた事のように思い出せる。国中の国民が父の為に咽び泣いた。城の城壁に沿って並べられた花束は、際限なく積み重ねられる。
　国中の国民が泣いているというのに、ロキは涙が出なかった。まるで自分よりも父を知っているかのような、父と過したかのような顔で泣き続ける国民が、憎くなる程。