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目に映るもの全てに嫌悪が湧く。
キナ、自分、隊服、文字、才能、才人、制服、世界。ああもう、くそ。全員死んでしまえ。それでいい。
僕の内側を占領していく黒い感情に突き動かされた両腕は、ゆっくりとキナの肩から細い首へと場所を変えた。徐々に力を込める。
許せない。正しい選択ができる人間の筈のキナが間違えた事。僕の心を裏切った事。僕は、絶対に許さない。
「なんで、なんでなんだよ、どいつもこいつも…。やり方ってもんがあるだろ！ そんなの正義じゃないんだよ！ 正しいかどうかを決めるのは俺達じゃなくて…!!」
世界なんだよ。そう口から出そうとした時、首を絞めるのを阻止しようと僕の腕を掴んでいたキナの手が、僕の口元に移る。
「彼らが、叡智の門をどうしたいのかはわからない、けど…それを変えたいのが、彼らなんじゃないのか」
キナの苦しそうな喘ぎで、本当に絞め殺そうとしていた事に気が付き、手の力を緩める。するとキナは壁に手を付いて咳込んだ。彼女の首にはくっきりと指の跡がついていた。
体がじんわりと熱くなる。それに対して、表面は氷のように冷たい。初めて抱いた本物の殺意に、少し恐怖していた。
キナを殺すなんて事、きっと僕にはできない。けれど、殺そうとした。
「あぁ、でもあんたはそういう人だったっけ」
相反する感情が度重なって起き過ぎて、自分がどうしたいのかも何を考えているのかも分からなくなる。
混乱で頭が痛くなってきた。耐えかねて、前髪を掻き乱しながら、その場にしゃがみこむ。
「早く、行ってください。貴女を見てると吐きそうになるんです、早くいなくなってくださいお願い、お願いですから」
喉が乾いているせいか、紡ぐ言葉も掠れていった。
キナはその場に数秒ほど立ち尽くすと、走って去っていった。暫く頭を抱えこんだままいて、ようやく僕は立ち上がった。感情をぶつける先を無くして、勢い任せに壁を蹴飛ばす。
刀のストラップが、チリン、と鳴った。
この鈴は、初等教育場にいた時にキナが貯めたポイントで僕にくれたものだ。音が鳴る度脳裏にキナがちらつく。でも、その憎悪さえも愛しく思えた。なんて酷い錯覚だろうか。
僕は、頭を掻きながら刀を抜き、目につく言ノ葉連合の構成員を手当り次第殺すつもりで路地を抜けた。
「(嗚呼、本当に憎たらしいな。一周回って痛快だ)」
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