【終焉の使者団】既往のメッセージ【派生作品】 (ページ9)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:1,822 hit

■あんよが上手ページ9

.

　給食後の昼休みは、いつにも増して教室の酸素が薄くなる。…正確には私の周りの酸素が。
　別クラスの友達の所へ遊びに行ったり、体育館へ運動しに行ったり、教室の角に集まって秘密の集会をしたり。勿論楽しそうだとは思うが、それに混ざれる程のコミュニケーション能力も愛想も持っていない。
　だからいつも、私は息をしないように精一杯存在感を消して、こうして本の中にある架空の世界に入り浸っている。酸素が無いのに息をしようとしたって無駄だし、息をしようと口をパクパクさせて醜態を晒すのも御免だ。
　もうこの本を最初から読み返すのは6回目。毎日新しい本を持ってこようと思っているのに毎日忘れて、結局つまらないと思いながらもまた読み返す羽目になる。
　──ただ、だからこそと言うべきか、私に興味を持つお馬鹿さんもたまにいる。

「あ、リユウちゃんもその本好きなんだ？いつも読んでるよね！わ、私もこの前その本買ったんだ！面白いよね！」

　私の机の横にしゃがんで、目だけを出してその子は言う。
　多分この子はいい子だと思う。私に話し掛けてくる時点で。「この子はいつも独りだな、仲良くなってあげよう」きっとそう思って話し掛けてくれた。嬉しくない訳では無い。寧ろ仲良くなるチャンスだ。けれどこういう時、決まって会話はすぐ終わってしまう。

「…うん、もう何回も読み返してて……新しい本に変えたいんだけど、ね」
「いっつも読んでるもんね…」
「……」

　繋がり掛けた私とその子の糸がプツリと切れる。繋がりを持つにはあまりにも頼りない糸だ。
　すると、途端に私にはたらく重力は重くなり、酸素は薄くなる。私の脳みそが、真っ白でドロドロな絵の具に塗り潰されていく。その子の名前も、この本の感想も、何一つ口から出てこない。
　気まずそうな顔をしたその子は、廊下から顔を出す別クラスの生徒に呼び出され、まるで「助かった」とでも言いたげな安堵の表情を見せて駆けて行った。

「この本の主人公カッコイイよね。誰とでも仲良くなれて。私もそうなりたいな」

　もう彼女は目の前にいないのに、のろまな私の言葉達は、今更になって口から流れ出ていった。こんな感想を言えたら、君は「だよね！」なんて言って、ありもしない話の蕾を咲かせたりしたのだろうか。
　脳みそを塗り潰した白の絵の具をまた塗り潰し始めるのは、私がその場で本の感想を言えた時のif。
　この空間でこんな独り言。私、痛過ぎる。