【終焉の使者団】既往のメッセージ【派生作品】 (ページ8)

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　ふ、とベットの側にある台を見ると、花瓶が置いてあった。季節の花が、凛と咲き誇っている。見たところまだ新しい。楓に会いに来るのは、俺の他には──。
「桜」
　声だけで分かる、優しい人柄。後ろを振り返ると、照れたような笑顔の父が、俺に手を振っていた。

「やっぱ来てたんだ。花瓶あるからなんとなく来てると思ってた」
「今日は休み取れたんだな。久し振り。使者団はどうだ？忙しい？」

　父は椅子を新しく出して隣に座った。
「まぁまぁかな。皆優しいし楽しくやってるよ」
　そうだ、アップルパイ買ってきたんだ。お父さんにアップルパイの入った袋を手渡す。すると少し顔を嬉しそうに綻ばせて、「楓に秘密で食べたら怒るだろうなあ」と言った。
　何も言わずに頷いて、また楓に目を移す。

　お父さんは、黒縁メガネの奥で眉を下げて、申し訳なさそうに言った。

「ごめんな桜。お前も、大学とか行きたかっただろう。サッカーもしたかっただろうし。──お父さんだけ何も失ってないな、ごめんな。お前にばかり辛い思いをさせて。頼りない父親ですまない」

　少し丸々とした体型が、背筋を曲げる事によってさらに浮き彫りになる。ダルマのようで可愛げはないけれど、そこにある哀愁は海のように深くて、ダルマと言えど押せばもう起き上がってこれそうにはなかった。寂しそうな顔だ。
　ズ、と音を鳴らして、椅子をお父さんの椅子に近付ける。
　そして、ゆっくり、お父さんの肩に頭を預ける。

「何も失ってないわけないだろ。楓の為に節約して…ビールも我慢して…、仕事も頑張ってる。何より、楓と過ごす時間を失ってる。…サッカーは単なる趣味だったし、大学だって家族と天秤に掛けたら大した事ない。だから、仕事がどんなにキツくても、苦しくても…辛くないんだ。お父さんが頑張ってるって思ったら、俺も頑張りたくなる」

　使者団に入ったのは紛れもなく俺の意思だ。父を助けたいと思って選んだ道。
　お父さんは俺の方を見て笑った。

「桜は優しいんだな」
「“俺に似て”桜は優しいんだな、だろ。俺は誰が何と言おうとお父さん似だよ」
「そうか？俺はお母さん似だと思うなぁ。料理してる姿とか」
「は〜？俺あんなに怒ったりしないし」

　楓だったら、「私も混ぜて！」って飛び込んでくるんだろうな。そう思いながら、静かにふっと目を伏せた。
　俺は楓の目を覚ます王子のキスなんかはできないけれど、目を覚ますまで、君を守る騎士なんだ。