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「…あぁ、おじさん！ 久し振り」
「本当に桜くんか！ いやぁ、高校生の時ぶりかな？ 相変わらず背高いね、伸びたかい？」
「流石に伸びてないでしょ、俺もう19だよ」
現在の俺の身長は188cm。…まぁ日本人離れした身長ではある。日本人男性の平均身長辺りであろうおじさんも、俺が見下ろすレベルだ。
「もう19だよ」という言葉に、おじさんは少し寂しそうに「もうそんなに経ったのか」と溜め息を吐いた。小さく返事を返して、またガラスケースに目線を戻す。多分だけれど、店のアップルパイは変わっていない。
「…楓ちゃんが一緒じゃないって事は…まだ、目ぇ覚めてないんだな。…もう2年かぁ、本当は今頃中学3年生だったのに…」
「……」
楓は、俺が使者団に入った年──2年前に、魔物に襲われて大怪我を負った。以来、目は覚めていない。ここから何キロか走った先にある大学病院で眠っている。
目を閉じた先の瞼の裏に映るのは、昨日の事みたいに思い出せる、楓との毎日。耳を塞いでも、「お兄ちゃん」と俺を呼ぶ声が聞こえてくる。それは紛れもない虚像で、俺の中にある記憶でしかないのに。
おじさんは「よし」と言うと、俺の方に分厚い手を置いてにかにかと笑った。「ここに来たって事は、楓ちゃんの好きなアップルパイ買いに来たんだろ？ せっかくだからできたて買ってけよ！」気を遣わせてしまっただろうか、と思ったが、何か言うのは野暮だろう。男の気配りってやつだ。
アップルパイが3ピース入った箱を手に持って、再びバイクに跨る。楓なら、きっと喜んでくれるはずだ。
暫くバイクを走らせれば、白い四角柱の建物が顔を覗かせる。楓の病室は何階だっけ。
エレベーターで何階か上がって、病室へ向かう。
白い戸を開けると、そこには俺とは似ても似つかない少女が眠っていた。
小柄で細身の頼りない体に、小さくてまだ幼さの残る顔立ち。ふわふわの金髪と、閉じたままの大きなタレ目。何もかも俺と真逆な、俺の妹だ。
近くに置いてあった椅子に座って、眠りっぱなしの楓を見詰める。「アップルパイ、買ってきたぞ。いらないの？ なら、お兄ちゃんとお父さんで食べちゃうぞ。昔は馬鹿みたいに早起きだった癖に」返事が帰って来ないのを知りながらも、虚しくなるだけと思いながらも、楓に言葉を投げかける。
“いる！ お兄ちゃんたちだけなんてずるい！”
そう頬を膨らませる楓が、目に浮かんでしまう。
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