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今すぐ皆の所に駆け寄りたかった。通り過ぎて行った皆の所に行きたかった。
──けれど、それ以上に頭が空っぽで、空白で埋め尽くされていて、身体に「動け」と指示を出す程余裕がなかった。
急に世界の現実味が失せていく。しだいに、世界の色が無くなっていった。魂と嫌な汗が流れ出る。それに伴って、身体の力が抜けていく。周りの音も聞こえなくなって、視界がぼやけて、足元がぐらついて。
実際は私の足の力が抜けてその場に座っただけだった。けれど、私にはその感覚は、地面が割れて無くなっていくようだった。
「(ダメだ、立てない)」
“
生きる希望を無くすというのは、絶望というのは、きっとこういう事を言うんだと、その時初めて知った。
薄い酸素を肺に取り込む事に精一杯で、私は目の前に人がいる事に気が付かなかった。その人が私に声をかけてくれている事にも。
その人はしゃがみこんで私と目線を合わせると言った。茶髪の男の人だった。
「ねぇ君、大丈夫？」
──大丈夫な訳がない。そう答えたかったけれど、そう言える程、というか、言葉を口から発せられる程の気力が私には無かった。
何も答えられない私を見て悟ったのか、その男の人は悲しそうな顔をすると、地面にへたり込んだままの私を立たせてくれた。
「オレは天音京。…君の名前は？」
「…な、…浪岡」
「うん、浪岡？」
「リユウ……」
「リユウちゃん？ わかった、リユウちゃんだね」
喉がカラカラで、途切れ途切れに話す私を、アマネさんは私の目を真っ直ぐ見て聞いてくれた。アマネさんは私の手を取ると、殺された人達が運ばれる方を見て「君のお父さんお母さんは、あっちにいるの？」と言った。
小さく頷くと、そっか、と返して、アマネさんは私の手を引いて、そちらに歩き始めた。
「君の家族は、何処？」
アマネさんの手を握って、もう片方の手で指をさす。
「…お父さんと、お母さんと……お姉ちゃん」
「おじいちゃんおばあちゃんとか、他に家族は？」
横に首を振る。おじいちゃんもおばあちゃんも、小学校低学年の時には皆死んでしまった。これで本当に一人ぼっちだ。友達もいないし、家族もいない。言葉通りの。また息が辛くなってきて、使い古した靴を見ると、アマネさんが腰を曲げて、私と目を合わせて言った。
「リユウちゃん、君の事もっと教えて」
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