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 天ちゃんは私を引き寄せて、ぎゅっと抱き締めた。
 何か言うのかと思ったけれど、天ちゃんは何の言葉も発さない。感じるのは天ちゃんの良い匂いと、脈拍と、耳辺りに当たる天ちゃんの呼吸。ゆっくりと息を吐いて、吸っている。天ちゃんはその呼吸のリズムに合わせて、私の背中を優しく叩いた。
 それに合わせて息を吸って吐いてみる。すると少し、私の周囲の酸素は、私に対して優しくなった。

「…皆、なんで誰にも教わってないのに息して、1人で歩いてるの? なんでそんな真似できるの」
「なんでだろうね。本能かな。生きなきゃって思ってるのかもね」

 天ちゃんは私から体を離し優しく微笑む。

「リユウちゃんは息の仕方が分からなくても、息をしようと頑張ってるでしょ。歩けなくても、生きようとしてるって事だよ。上手に歩けない自分も、許してあげられないかな。ほら、司令室だけでも、リユウちゃんが歩くの手伝ってくれる人、こんなにいるんだよ」

 私が何を言っても、天ちゃんはまっすぐ私の目を見てくれる。きっと家族でも、私の死んだ目をまっすぐ見てくれる人はいなかった。
 なんだか泣きそうになってきて、小さく「うん」と返してから袖で目元を覆い隠す。天ちゃんは私の頭に手を置いて「うんうん、大丈夫だよ、よちよち」と言いながら笑った。

 天ちゃんだけじゃなくて、使者団の皆はいつでも1人で歩いている。皆が遠く見えて、なんだか悔しくなった。


 涙を拭って、多分下手くそな笑顔で言う。「使者団ってカッコイイよね。誰とでも仲良くなれて。私もそうなりたいな」すると天ちゃんは整った顔を嬉しそうに笑わせて、「リユウちゃんならなれるよ」と言った。

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作者名:くろせ | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年4月26日 21時

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