ページ ページ12
.
天ちゃんは私を引き寄せて、ぎゅっと抱き締めた。
何か言うのかと思ったけれど、天ちゃんは何の言葉も発さない。感じるのは天ちゃんの良い匂いと、脈拍と、耳辺りに当たる天ちゃんの呼吸。ゆっくりと息を吐いて、吸っている。天ちゃんはその呼吸のリズムに合わせて、私の背中を優しく叩いた。
それに合わせて息を吸って吐いてみる。すると少し、私の周囲の酸素は、私に対して優しくなった。
「…皆、なんで誰にも教わってないのに息して、1人で歩いてるの? なんでそんな真似できるの」
「なんでだろうね。本能かな。生きなきゃって思ってるのかもね」
天ちゃんは私から体を離し優しく微笑む。
「リユウちゃんは息の仕方が分からなくても、息をしようと頑張ってるでしょ。歩けなくても、生きようとしてるって事だよ。上手に歩けない自分も、許してあげられないかな。ほら、司令室だけでも、リユウちゃんが歩くの手伝ってくれる人、こんなにいるんだよ」
私が何を言っても、天ちゃんはまっすぐ私の目を見てくれる。きっと家族でも、私の死んだ目をまっすぐ見てくれる人はいなかった。
なんだか泣きそうになってきて、小さく「うん」と返してから袖で目元を覆い隠す。天ちゃんは私の頭に手を置いて「うんうん、大丈夫だよ、よちよち」と言いながら笑った。
天ちゃんだけじゃなくて、使者団の皆はいつでも1人で歩いている。皆が遠く見えて、なんだか悔しくなった。
涙を拭って、多分下手くそな笑顔で言う。「使者団ってカッコイイよね。誰とでも仲良くなれて。私もそうなりたいな」すると天ちゃんは整った顔を嬉しそうに笑わせて、「リユウちゃんならなれるよ」と言った。
続く お気に入り登録で更新チェックしよう!
最終更新日から一ヶ月以上経過しています
作品の状態報告にご協力下さい
更新停止している| 完結している
←前ページ
3人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「派生作品」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ