No.133 ページ34
黒瀬が泣いている所にやってきたのは、黒瀬だった。黒瀬と同じ瞳の色の、親友。黒瀬はおもむろに少し顔を上げ、自分を見詰めて動かない白瀬を見上げた。
『なんで泣いてるの?』
とでも言いたげな顔であった。なんで泣いているかなんて、わからない。黒瀬の中で、『黒瀬剣士』というモノが崩れていく。彼から
すると白瀬は黒瀬の前に座った。
「黒瀬?」
「……」
「………黒瀬は」
名を呼ばれても、何を返したら良いかなんてこんな頭じゃ考えられなくて、なにも返せないでいると、白瀬はぽつりと言った。
「黒瀬は、私が守るよ」
………え?
一瞬、黒瀬の脳内は真っ白になって止まった。意味が理解できるまで数秒かかった。
私が、守る?オレを?守られる………?
自分を守るなんて言われたのは久しぶりだったような気がする。
白瀬は黒瀬を抱き締めていた。抱き締められるなんて、もっとない。彼からすれば意味のわからない事のオンパレードであった。
人の暖かみなんてとうに忘れていた。覚えているのは、暖かみが消えていく屍ばかり。
「白、瀬……?」
相手の名前を呼ぶのがやっとだった。脳みそは上手く働かず、身体も石になったように動かなかった。
白瀬はそんな黒瀬に、甘く優しい言葉をふりかける。
「お前を傷付けるモノはみんな消してやるから。ずーっと守ってあげる。だから、もう泣かないで?」
核心を突かれたようなきがした。
守られるということも、抱き締められるということも、泣かないでと言われることも。
彼の記憶の中にはなかった。その意味を理解することもできなくて。
一方で理解したいと思う自分もいた。
守られるという事を理解するには、守らなければ。抱き締められるという事を理解するには、誰か苦しんでいる人を抱き締めなければ。泣かないでと言われる事を理解するには、誰かに泣かないでと言わなければ。
彼の中で欠落したのは、何かをしてもらうということ。遠い昔誰かにして貰った筈が、人生という道を歩く途中で落としてしまったらしい。
黒瀬は静かに目を閉じた。
そのままゆっくり白瀬の背中に手を回した。涙が出たままの不格好な顔で、ありのままの自分で。
「じゃあ……、オレが白瀬を守るよ。」
邪魔な柵や呪縛が解けたように、自分でも、相手からでも、初めて見た子供のように純粋な笑顔。白瀬はそんな笑顔に少々驚いたが、それから白瀬も笑った。
7人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
花梨(プロフ) - 皆さまお疲れ様でした〜 (2018年9月14日 22時) (レス) id: e3aad0174a (このIDを非表示/違反報告)
透明少女(プロフ) - お疲れ様でした!あまり参加出来ずにいて申し訳ありませんでした…!本当にありがとうございました!! (2018年9月14日 21時) (レス) id: 6dddb2cb16 (このIDを非表示/違反報告)
睦都(プロフ) - 初めからずっと見てました!主催者様、参加者様の皆様お疲れ様でした!剣士君たちとても好きです(*^^*)ほんとうにお疲れ様でした (2018年9月14日 19時) (レス) id: 3a040f6594 (このIDを非表示/違反報告)
羊素。(プロフ) - 遂に完結ですか…少し寂しい気もしますが、主催者様、及び参加者の皆様、お疲れさまでした。 (2018年9月14日 5時) (レス) id: dc73ea1538 (このIDを非表示/違反報告)
紅葉 - お疲れ様でした! (2018年9月13日 18時) (レス) id: c46d432f11 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ